忘却の夜

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 突然黙った僕をかえでが見つめる。昨日と同じ吸い込まれるような瞳がそこにある。 「今日、約束破ってしまってごめんなさい」  沈黙の重みの上にかえではそっと言葉を載せていく。 「学校に行こうとしたら、急に怖くなって。あの日のこと、思い出して」 「うん」  僕の相槌がその上に重なる。 「登校中に同じ制服の人を見つけて。とっさに逃げ出したて。公園の近くで犬に吠えられて。横断歩道を渡ろうとして、車に轢かれそうになって。もういっそ跳ねられようかなんて思って。でも学校に行かなきゃって思って。コウくん怒るだろうなあって……」  最後の言葉は沈黙の上に情けなく沈む。僕は何も言い返すことができず、更地になった展望台跡へと逃げるように歩む。かえでに背を向けて。 「コウくん待って!」  背中へ吹き抜けた木枯らしにかえでの声が混じった気がした。気がしただけだ。更地に立ち振り向くとかえではついてきてなかった。コーヒーカップの運転台の裏にもたれたままだ。
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