忘却の夜

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 ここが無くなれば、かえでも消える。はっきりとわかった。この街がここを忘れ去ろうとしていることとは反対に、僕は忘れまいと必死にしがみついていた。かえでに。幼いころの思い出に。その結果が今背後にいるかえでだ。  更地になった高台から街を見下ろすと、随分様変わりしていたことに気が付いた。地平線に立ち並んだ高層マンションの光が空へとこぼれている。郊外にできた大きなショッピングセンターは勝ち誇ったようにこの時間帯でも活気に満ちていた。その姿がどことなく許せない僕は、空を仰いでいた。  透き通るような夜空はあの頃と変わらない。ただそこに星の輝きはなかった。オリオン座も明るい星々だけが微かに瞬くだけだ。ここにはもう僕がしがみつく物はほとんど残っていないのだ。  木枯らしが止んでから振り向くともうかえではいなかった。そうして二度と会うことはなかった。次の日にもここは完全に解体され、再開発として分譲住宅に生まれ変わるらしい。僕がここに来ることもそれ以来なかった。
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