判決の時

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判決の時

204で待たされていたのは鈴木大介だ。 ドアが開く。 案内人が顔を出すと、すぐさま言った。 ーー証言台へ。 言われるままに大介は証言台へ歩み寄る。 「万が一、この判決が不服なものであったとしても、裁判のやり直しは出来ませんので、ご了承下さい」 案内人が真面目な顔をした。 ーーこれより鈴木大介に対する判決を言い渡します。 ーー生死をかけた裁判をしていると言うからには、俺は今生きてはいないのだろうが、胸の鼓動が高まっているように感じた。 案内人がハッキリとした口調で言う。 ーー大介さまへの判決は「生」。あなたはもう一度現世に帰り、人生をやり直して下さい。 突如、涙が溢れてきた。 ーー生きられる。良かった。 これまで当たり前のように思えていた事実が、実はすごく大切な事で、実はすごく深い意味を持つ事なんだと言う事がわかった。 頭を深々と下げて、大介は言った。 「僕をもう一度、生きられるようにしてくれてありがとうございました」 頭をあげて大介は聞いた。 「ところで僕はこの後、どうしたらいいのですか?」 案内人が答える。 「もう1人判決を下すので、それまでここでお待ちください」 「はい。わかりました。ありがとうございます」 大介は再度頭を下げた。 突然、204と書かれた部屋の中が賑やかになったようだ。先程までの雰囲気がガラリと変わった。案内人がいた場所の両隣から、沸いてでてきたように、数名の人が座っていたからだ。 男性2名。女性2名。 彼らはこの裁判に関わった人達なのだろう。 案内人と同じ服装をしている。 「大介さん、生と言う判決になって良かったですね」 女性が言った。 「はい。本当に良かったです。ありがとう」 また涙が溢れてくる。 「ちゃんと彼女の事を大切にしてあげて下さいね」 「はい」 ーーまた彼女に会える。会えるんだ。 感情が高ぶる。 彼らはまた次の判決を告げるため、次の人が待つ部屋へと歩いていったようだ。 次はきっと眠っていた彼だろう。山崎拓海と言ったかーー。 大介はまた1人に戻ってしまった。 ーー拓海。 404の部屋のドアが開き、案内人が顔を出した時、呑気にも拓海は眠っていた。 案内人は彼が眠っている事はまるで気にしていない様子で、拓海の肩を叩き起こした。 「拓海さん、起きて下さい!判決ですよ」 ーー山崎拓海さん、証言台へ。 「はい」 拓海の声はかすれている。まるで風邪でも引いている様なガラガラ声だ。素直な口調で彼はそう言いながらも、態度はあからさまにイヤそうに見える。 仕方なく証言台へ向かう。 そんな態度だった。 「山崎拓海さん、あなたの判決は死ですーーこれからあなたが行くべき場所に、ご案内します。それまでお待ちください」 ーーまた、だ。俺はまた1人になってしまった。 一体なぜ?こんなにも多く一人にならなければいけないのだろうか? まぁいい、、1人には慣れている。。 ーー大介。 その頃204号室で待たされていたのは大介だったが、メンタル的に相当疲れていた。しかし、その結果が「生」と出た事で、気が抜けてしまっている。 「大介様、さぁ、参りましょう」 案内人は終始にこやかに笑っていた。その後で捕捉するように、案内人の彼は言った。 「残念ですが、あなたは「生」と言う判決でしたが、もう1人の方は「死」とゆう判決でしたので、現世にお連れするのはあなただけと言う事になりました」 案内人が頭を軽く言った。 どうやらこの世界では「個人情報」も何もあったもんじゃないらしい。 ーーどうして僕だけ「生」とゆう判決だったんでしょうか? 不思議だった。 直接、大介は案内人に聞いた。 ーー裁判で聞いた事に関しては、こちらでも事実確認しましたが、あなたは自分に正直でした。ですから、願い通りの結果になったようでした。 「拓海と言うもう1人の彼は?」 「彼は自分にウソをつきすぎていました。だからこそ、死の世界に導かれたのです」 「そうですか」 大介は「生」とゆう望み通りの結果を手にしていながら、なぜか手放しで喜べないような気持ちになった。 先ほど固く手を繋ぎ合った彼は「死」の判決を受ける事になってしまったからだ、、。 そんな事を考えていると、二本に枝分かれした道にたどり着いた。案内人が右手の道を指差して言った。 「大介様はこちらの道から、現世へとお戻りくださいーーでは、私はこれで」 案内人は頭を下げ、軽く手を振ってから「お元気でーー」と言った。 そして案内人はまたもう1人の彼のもとへと向かって走って行った。 長い廊下を渡っていると、物凄い騒音が響き渡ってくる。 ーーなんだ?一体何が起きている? その音のする部屋へと急いで向かった。 404ーーこの部屋だ。 案内人はこの部屋にいたのが誰だったか?名簿で確認する。 山崎拓海だった。 彼は部屋中のいろんなものを蹴り飛ばしているのだろうか?ーー対したものは置いていないはずだが、、。 彼が何らかの方法で大暴れしているのは間違いなかった。 「拓海さん、お静かにーー」 ドアを開けると大きな声で案内人が言った。 いつもより冷静な声でーー。 しかし、彼の耳には届いていないようだ。 彼のヒートアップした感情は、さらに熱を上げていく。 「静かにしなさい」 案内人が声をあらげた。 「ーー何だよ、俺に指図すんな」 思わず振り上げた手が、案内人の頬に思いっきり当たってしまった。 それに驚き、一瞬だけハッと我に返った拓海だったが腹の底から沸き上がる「怒り」は収まらず、冷静には戻れなかった。 ーーこんな事は初めてです。 激怒しているんだろうか?案内人は握りしめた拳を震わせている。 殴られた頬を撫でるでもなく、案内人はその部屋の鍵を閉めた。 その時「少し頭を冷やしなさい」ーーもっともその声が、大暴れしている彼の耳に届いているかどうか定かではなかったが、、。 こんな事は前代未聞だ。どう対処していいのか?随分と長くこの世界にいる案内人にも、分からない。 一体どうしたものか? しばらく彼が大暴れしている音が、長いろうかの隅々まで響き渡っていた。 現世での30分弱の時間が過ぎた頃、突然あたり一面に静けさが広がった。 物音一つないその静けさから、どうやら彼も落ち着いたようだ。 案内人はそう思った。
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