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だから中学に入って、また同じクラスになれたのは、真冬に夏を得たような心強さだった。勉強も体育も、昔のように簡単にはいかない。動きの鈍い私を避ける子もいるけれど、克己くんだけは今も、変わらない笑顔をくれる。
けどいざテストが始まってしまえばそこには自分しかいないのだし、リレーのスタートラインに立ったなら、もう後には引けない。
今はそのリレー。運動会のクラス対抗リレーが、一番の悩みどころだ。私が足を引っ張るから、場が険悪なムードになっていくのが耐えられない。
「どうしたの。またどっか苦しいんなら保健室いこうか?」
「えっ」
教室の中、心配そうにこちらを覗き込む克己くんと目があった。
私は生まれてすぐにお父さんを事故で亡くしたから、一人っ子だ。けれど克己くんは下に弟が二人いる。
だからだろうか、ときどき同級生というより、優しいお兄ちゃんがいてくれるような気がするのは。
「リレーが、上手くいかなくて……」
なんとか口元だけでも笑って見せると、克己くんは「うーん」とのけ反った。
「俺も苦手なんだよなー。あれどうやったらみんなみたいに早く走れるんだろうね」
ああ、そうだった。克己君もそんなに運動は得意でないらしいことは、授業を見ていれば自然に分かる。確か跳び箱とか幅跳びとか瞬発的な競技は出来る方だけど、リレーや水泳は男子の中では遅いようだ。
でも、克己君は明るい。失敗してもできなくても、いつもたくさんの友達に囲まれていて、そこが私との大きな違いだ。
「アドバイスできなくてゴメンだけど、まあ、なんつうか、そんなに落ち込むなよ。歩己の良いところなんて他にあるじゃん」
「えっ」
その話、もっと詳しく聞かせてほしい……なんて思いは、始業チャイムに虚しく阻まれた。
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