太陽のエール

3/21
前へ
/21ページ
次へ
決定的な出来事があったのは、小3の時だ。 初夏の頃、私たちは授業参観日の国語に向けて朗読の練習を課せられていた。 つまり、今習っている教科書の物語を一段落づつ分けて朗読するのだけれど、それはただ自分の席で読むのではなくて、聞いてほしい異性を自分で選んで、その子の席の前に立つのだ。 それから、自分の担当段落を読み上げる。 聞いた異性側は、相手の朗読が上手だったら「花丸」と言ってあげましょう。という内容の授業になるらしいと聞いてーーすごく焦った。 私は人前で話すなんて大の苦手だったし(今もだけど)、まして男の子やママの前でそれをやるだなんて、考えただけでもゾッとして。 毎日毎日、背中に氷でも当てられてるみたいな恐怖を背負って、必死になって練習した。だってできないなら、怖いなら、練習しかないーー。そう思って、自分の段落を繰り返し繰り返し朗読したんだ。 迎えた授業参観日当日は、迷わず克己くんの席の前に立った。既に四人の女子が前に並んでいる。男子では一番人気だ。背後にはママの鋭い目が光っている。 大丈夫。空で暗記するほど練習したんだから。 そう確信して臨んだはずなのに、いざその時になってみると、頭が見事にぜんぶ真っ白になって、私は二度もかんでしまった。 チラりと横を見ると、残念そうなママの顔。 もうダメだ、終わったんだーー。 あきらめて目を閉じかけたとき、 「うん。よし、花マル!!」 特大のエールが降ってきた。 びっくりして顔をあげたら、克己くんのミッキーマウスみたいな笑顔が飛び込んできて。 明るくて、眩しくて誇らしくて、なぜだか私はもう、泣きそうになったんだーー。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加