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外は土砂降りに変わっていた。
その中を、傘も差さずにめちゃくちゃに走った。
目的もなくロクに前も見ず、住み慣れた土手をのぼって、駆けて駆けて、そうしたら、目の前に克己くんが立っていて。
帰宅途中か学生鞄を下げたまま、傘を差して、ポカンと口を開けてこっちを見ている。
見られた。こんなぐしゃぐしゃの泣き顔を、一番見られたくない人に。
恥ずかしさに発作的に反対側の河原へ駆けおりると、あとを追う気配がする。
来ないで、誰も来ないで。今の私には、優しい言葉なんて言えない。ひどい事を言うかもしれない、傷つけるかもしれない。
お母さんのことは、きっと傷つけた。私も腹が立ったけど、疲れてるお母さんを、もっと疲れさせてしまった。
でも、どうして?
私だってやるだけやってるのに、お母さんはもっとがんばれっていう。
「待てよ歩巳!」
分かってる。もっと出来るようにならなきゃって、そんなこと私にだって分かってる。
「待てって!」
握られた手首が、時を止める。
「ーーだって」
「え?」
「私だって! お母さんの役に立ちたいのに! こんなに、こんなーー」
「歩己?」
「好きなのに! 大好きなのに、私にはお母さんを苦しめることしかできないの!?」
「歩己」
どうしよう、克己くんにぶつけたらいけない、なのに思いが、溢れて止まらない。
「……走ることだって!! 昔は好きだった! 風を切るのが楽しくて、いつも走ってた。なのにもう、楽しいだけじゃダメなの? 好きなだけじゃダメなの? 上手くなくちゃ、ダメなの? みんなと同じにできなくちゃ……失格……」
「そんなこと」
「できないよそんなの、勉強だって、眠いのに我慢して、もう限界なの! がんばれないの私、もう、がんばれない!!」
そういってうずくまって、馬鹿みたいに泣き続ける私を、しゃがみ込んだ克己くんが、同じ傘の下に入れてくれたーー。
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