太陽のエール

1/21
前へ
/21ページ
次へ
子供のころから私は、自信なんてこれっぽっちもなかった。 なのに周りの大人たちからは、凄いね、こんなに勉強できて偉いね、字が綺麗で凄いね、歩己ちゃんは何だってできるね、できる子、できる子……。 褒めてくれるその陰に、妬みとか皮肉とか、そんな物が見え隠れしていた。 だから苦しかった。 本当の私はそんなんじゃないし、いつだって怠けたいし、つらいし、逃げ出したい。 凄いのは見せかけだけで、周囲のーーママの期待に応えなくちゃって、ほんとはきっと、凄く無理してた。 それでも去年までは、努力すればそれなりに取りつくろえることもあった。 なのに中2になったら、急に勉強が追いつかなくなって、自分よりできる人の能力ってやつを、まざまざと見せつけられたりしてーー とにかくそれまでできていたことまでが、最近、ちっとも上手くいかなくなって……。 「なんだよ最近。元気ねえじゃん」 「えっ」 ーーびっくりした。心を読まれたかと思った。 昨日の席替えから、奇跡みたいにとなりの席に座っている克己くんが、目をまんまるとさせて私の顔を覗き込んでいる。 そんな仕草は小1のときのままだ。 「笑うなよ。あっ違った、笑え。よし、笑ったな」 よしよし。 と言って、折り紙の続きを折る長い指。 私の返事など聞かないマイペースさが、気を遣わせないからとても楽だ。 ズレたメガネを鼻に押し上げて、真剣そのものの横顔をじっとみる。 克己くんは不思議だ。 本と折り紙が大好きで、運動は少し苦手みたいだけど、いつも大勢の友達に囲まれていて。 まじめなのに明るくて、楽しいことが大好きで、人の悪口は絶対に言わない。 それどころか、 「えー、お前そんなに自主勉進んだんだ。スゲえな!」 って、何の屈託もない笑顔で、いつも誰かを褒めている。 妬みなんてひとつもない褒め言葉だ。だからみんな嬉しいし、自然と友達になりたくなるんだと思う。 もちろん私も、そのひとりだ……。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加