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「あっ! ネットに出ていた! お父さんはピアニストで、お母さんはヴァイオリニストだって」
「うわぁ……音楽一家じゃん。親の七光りかよ?」
「それだけじゃないみたい。伯父さんと伯母さんもピアニストで……あっ!」
「ど、どうしたの!?」
「有賀さんって、どこかで聞いたような名字だと思っていたけど、あの有賀響也の従姉妹じゃん!」
「マジで!?」
「うん。有賀さんの伯父さんと伯母さんの子供が、あの俳優の有賀響也みたい。だから、有賀さんの従兄弟にあたる」
「あっ! だから、優勝したんじゃん!」
「どういうこと?」
「親の七光りと、有賀響也の従姉妹だから。確か、市長って有賀響也のファンなんでしょう? うちの市の出身芸能人って事で、めっちゃめっちゃ宣伝に使っていたじゃん」
あの頃の響也は、主にアタシが住んでいる市出身の俳優として、町おこしや宣伝が中心の仕事をしていた。
こんなところで響也の名前を聞くとか、最悪っと、思っていたけれど、女子高生達の次の言葉で、風音の頭の中は真っ白になった。
「あー。だからか!」
「そうそう……だって、大したことの無いの演奏だったし」
(やめて……)
アタシは耳を抑えた。
「海外の大きいコンクールでの優勝経験者もいるのに、無名の有賀さんが優勝出来るっておかしいもんね。やっぱり、親と有賀響也の七光りだったんだ!」
「いいよね。大して上手くなくても、俳優が身内にいれば優勝出来るんだから」
「だから、演奏待ちしている間、余裕顔だったんだ」
「演奏や努力をしなくても、優勝出来るってわかっていたんだもんね。うちらは無理ゲーだわ」
「いくら演奏しても、優勝出来ないもんね!」
(違う! 優勝したかった訳じゃないの!)
風音は声を出せない声を上げた。
「有賀さんの演奏をどう思った?」
「気持ち悪かった。自分の音に酔ってるみたいで!」
「ドヤ顔で演奏していたよね! あれは、自分の音に酔ってた証でしょう!」
「自分の音が、演奏が、一番って思っていたんじゃない?」
「もう、ピアノを、いや、楽器を弾かないで欲しい。不愉快だから、気分悪くなるから」
風音は我慢が出来なくなって、楽屋の扉を壁に叩きつけるように、おもいっきり開けた。楽屋内には、女子高生が4、5人が思い思いに寛いだ格好をしていた。
風音は荷物を取ると、唖然とした顔をした女子高生達を無視して、足早に楽屋を出た。
後ろから「聞かれてた?」や「ヤバくない!?」っと話す声が聞こえてきたが、風音は無視をして自宅に急いだ。
家族や伯母様は先に帰っていたから、風音は誰にも声を掛けられる事が無く、自宅にたどり着く事が出来たのだった。
自分の部屋に入ると、ベッドに顔を押し付けて、声が漏れないように泣いた。
(アタシの演奏は、アタシの演奏には何の意味も無かったの? 価値が無かったの?)
誰かに喜んでもらいたくて。
楽しく聴いてもらいたくて。
何よりも、ピアノ弾く事が楽しくて。
ずっとピアノを弾いてきた。その為の努力なら、沢山してきた。
それが今日の優勝で、認められたと思っていた。
でも、それは家族や響也によって、もたらされたものなの?
ーーアタシの演奏には、全く、何も、意味も価値さえも無かったの?
風音が顔を伏せていたベッドから起き上がろうとした時、足元のバックにつまづいた。
バックの中には、今日受賞した金賞の賞状が入った筒型の賞状入れとトロフィーが入っていた。
風音は賞状入れとトロフィーを手に持って、クローゼットを開けると、クローゼットの奥に叩きつけた。
(こんな思いをするくらいならーー知るくらいなら、コンクールに出なければ良かった)
トロフィーはその後、両親が娘の優勝記念に、リビングに飾ると言って勝手に持って行った。
しかし、この時の賞状は、今も、風音のクローゼットの奥に、放り投げられたままなのであった。
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