5人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
風音が高校2年生の時に、伯母様の薦めで、市で開催されているピアノコンクールの高校生の部に参加した。
そこには、風音と同じ様に、ピアノを学んでいる高校生達が参加していた。優勝候補と言われている生徒や、数々のコンクールで優勝経験のある生徒もいた。
抽選の結果、風音は一番最後に弾く事になった。
自分の順番が来るまでは、誰の演奏を聴いても、高い技術と素晴らしい才能を感じつつも、当時、自分の演奏以外に興味が無かった風音は、何とも思っていなかった。
今、思えば、その時の態度も良くなかったのだろう。
そうして、風音の順番が来た。舞台上のピアノの前に座った時には、緊張よりも興奮が優っていたように思う。
演奏した曲は、主催者側が指定してきた課題曲と、風音が好きな曲を自由曲として、2曲弾いた。
弾き終わった時に、会場内が歓喜に包まれたのを感じ取った。風音の心が興奮で震えた。
優勝よりも、自分の演奏で誰かを喜ばせられた事がーー自分の演奏が人の心を動かせた事が、ただ純粋に嬉しかった。
それから、審査が行われた。結果は、風音が金賞を受賞して、優勝候補達は銀賞以下を受賞する事になった。
審査員長であった当時の市長から、賞状とトロフィーを授与された時に、風音がピアノを続けてきた意味を理解したのだった。
自分は、ただ純粋に誰かを喜ばせる演奏がしたかったのだと。
賞状とトロフィーは、喜ばせる事が出来た自分の、今までの努力の証であるのだと。
風音が控え室になっている楽屋に戻ると、先に戻っていた生徒達の声が聞こえてきた。
「あーあ、有賀さんって人に金賞を持っていかれるなんて、最悪」
「有賀さんってそもそも、何者なの? 誰か知ってる?」
自分の名前が出てきた事で、楽屋に入りづらくなった風音はその場で聞く事になった。今思えば、そのまま楽屋に入ってしまえば良かったのだ。
でも、この時は、聞いてしまったのだ。
嫉妬と憎悪を燃やし、本音と建前を使い分ける彼女らーー女子高生の話を。
最初のコメントを投稿しよう!