災いも三年置けば用に立つ 4  

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(早く続き読みたいなあ)  先ほどまで食堂で読みふけっていた本のことを侑子は考えた。  読書の素晴らしいところは、現実のあらゆることを忘れ去ってしまえるところだ。悲しいことや悔しいこと、腑に落ちなくてモヤモヤすることがあったとしても、本の世界に熱中すれば、それらはすべて記憶の彼方へと追いやられる。さしずめ、世俗の垢をこそぎ落とすように、現実世界で沸き起こった感情が自身から切り離されて遠ざかる。どんなに嫌なことがあっても、読書をすればケロリとすることができた。  だから本が好き。というわけではなく、飽くまで本好きが高じた結果、『本を読めば嫌なことを忘れる』という特技を手に入れたわけだが、それによって彼女がますます読書好きになったのも事実だ。  ちなみに、侑子が特に好むのはミステリー小説である。映画化されることも多いジャンルのため、時々は数少ない友人を誘って映画館へ足を運ぶこともあった。殆どテレビを見ないので、俳優への先入観を持たない彼女は原作とのイメージの相違に不満を覚える心配がない。活字で描き出されたものが映像となって目に映せることを、彼女は単純に喜んだ。  何しろ、ミステリー小説というのは概ね登場人物が多く、様々な仕掛けやその種明かしが作中で行われる。正直なところ、文字だけでは理解しきれない。これは想像力というよりも、侑子の知識量の問題だろう。彼女は本好きだが勉強家ではなかった。むしろ本を読むのに忙しく、勉強は疎かにしてきたタイプだ。  その点、映像なら難解なトリックも複雑な人間関係も一目瞭然で理解が容易い。さらに映画には『音』がある。音が生み出す臨場感や高揚感、緊迫感は、紙面だけではなかなか得難い感覚だった。
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