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災いも三年置けば用に立つ 1
――八条綴市立図書館。
土地の三分の二が山という小さな都市の図書館は比較的小さなものだった。
そもそも、図書館と言いながら、その実、市民会館の一部でしかない。二階フロアの大半を占めるとはいえ、本の背表紙をざっと見て回るだけなら五分とかからない規模だ。しかしながら、児童向けのスペースと一般向けのスペースを、入り口正面のカウンターの左右に振り分け、児童向けの本棚は絵本など幼児向けのものと小学生以上を対象とした児童文学類、図鑑や科学雑誌、コミックと、しっかり分類がなされており、一般向けの書架は文芸書、専門書、美術書、趣味の本、ライトノベルなどの区分がきちんとなされている。リノリウムの床は天井の照明を映すほど磨かれ、棚にも埃ひとつない。
実に手入れと気遣いの行き届いた、なかなかにいい図書館だった。
「気に入った?」
ぴょこん、と、僕の脇から頭を出してライが訊ねた。
その口ぶりは一応のところ疑問形だが、その実、まったく確信している。そう言う彼もまた、くりくりと大きな目玉を期待でいっぱいに輝かせていた。
「そうだね。オンボロなエレベーターに乗った時はどうなることかと思ったけど。予想したよりずっといい」
僕が答えると、
「確かに」
キシシ。と、彼は肩を揺らして笑った。
市民会館は三階建てらしく、二階の図書館まではエレベーターか階段の二択だった。階段を使って疲れる距離でもなかったが、照明がなく、薄暗い印象だったのでエレベーターを使うことにした。すると、そのエレベーターは大人がせいぜい六人も乗れば満杯になるくらいの狭さで、しかも昇降時に酷く揺れた。
これはこの先にある図書館もろくなものじゃなさそうだと思ったのだけど。面積の程度はともかく、案外まともな場所だったようだ。
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