やさしい男

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「お先です~」 「おつかれー」  本日は無事に、二時で上がれた。従業員専用のドアを開け、道路にできた水たまりを見る。 「あちゃー……」  雨は降り続いていた。小雨ではあるけど、やみそうにない。黒い水に小さな波紋が繰り返される。 「はぁ」  カッパなんてないし……濡れて帰るしかないよね。  表側の駐車場へ小走りする。一応屋根の下には置いてある原付。座った瞬間おケツが冷たくなるのは嫌だし……あんまり濡れてないといいなぁ。考えていると、かすかな音に気づいた。  ん? なんか鳴いてる。  停めている原付の向こうに透明なビニール傘が見えた。屈んでいる人。 「あ……」  コウキ君だった。横顔は微笑んでた。原付の横に置いてあるダンボールを見下ろしてる。 「また、会いましたね」 「あ、……今上がり? お疲れさま」  俺の声にビックリしたように顔を上げ、コウキ君はやっぱりニカッと笑ってくれた。綺麗な猫目が糸のように細くなる。ダンボールの中を見ると、中には茶トラの子猫がいた。 「捨て猫ですか?」 「うん。そうみたい。俺ね、ここのすぐ近くのアパートなの。雨が小ぶりになったからコンビニ行こうと思ってさ~。小腹空いて」 「うん」 「そしたら鳴き声が聞こえちゃってねぇ~」  コウキ君はやれやれって顔して笑った。
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