replication

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スキャン結果によると、この文法形態は約1000±100年前の時代で用いられたものらしい。 主に「日本」という国で用いられた「日本語」という言語で、ピーク時には話者数が約3億人を誇っていた。 現在ほぼ使用されていない原因は「日本」の崩壊に端を発しているようだが、そこまでの情報は今回必要ないだろう。 問題はこれが捜査上有用であるのか、という点だ。 かつて存在していた感染症をただ説明しているだけで、特段、解決に繋がりそうな情報は含まれていない。 暗号復元用のプロトコルは本庁に戻らないと使えないので、今この場で可能なのは文面のまま分析する事だけだ。 メッセージは、自身が保有している感染症の情報を特定の何者かにではなく多数の人間に周知したい、という旨の主張から始まっている。 しかし広く周知したいのであれば1000年も前の言語など使わなくてもよいし、ネットワークにアップロードした方が効率的だ。 それをわざわざ紙に”自著”している。このご時世に死に際の遺言やら世迷言やら繰り言を紙で残す事例は僅少である。 紙媒体だと消失してしまう恐れがあるし、第三者に内容を書き換えられることもある。 紙媒体に固執している小説家も極少数いるが、今回は小説家ではなく教授だ。 実際、病際教授が執筆した論文や著書には紙媒体のものはない。 ただ、最も不可解なのは言語や媒体ではなくこの”メッセージ”そのものだろう。 現場に到着する前に教授の論文を一読したが、教授たるものかくありなんと思わせる文才で、”メッセージ”に見られるような異常性は微塵も感じさせなかった。 それに引き換え”メッセージ”はまさに「キチガイ」じみていて、途中で読む気が失せるほどであった。 ところどころ主観と客観が混合しているせいで、読んでいて目が回るし、最後には発狂しているとさえ思える。 正直、この”メッセージ”さえ無ければ「脳髄の故障による自殺」で一件落着だったのではないだろうか。
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