replication

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まあ、著名な大学教授が変死体で発見されて、ろくに捜査をされずに自殺で片づけると、騒ぐ輩も一定数いる。 そうなるよりは今回のように捜査にある程度時間がかかったうえで、結末を「自殺」に断定しやすい事案の方が上の連中もありがたかったのかもしれない。 現場は密室で、教授の変死体と、自殺に使ったと思われるアンプル、化学物質の残渣、そして件の”メッセージ”しかなかったのだから。 死体の第一発見者である教授のメイドは、今朝6時頃に微小な破裂音と僅かな振動を感じて目を覚ました。 気付かない振りをしてそのまま就寝していれば、今日以降惨劇にうなされずに済んだのであるが、不幸にも教授の書斎に向かってしまったらしい。 破裂音ともなれば泥棒が窓ガラスに穴を開けた可能性もあるし、あるいは何かガス漏れでもあったら、と判断したのだろう。 教授に異音と振動を報告すべく書斎のドアを開錠後押し開けてメイドが目にしたのは、部屋中に飛散した教授の残骸であった。 メイドが最初に確認できたのは臍より下の部位で、それらは部屋の中心に位置していた。 それらは上部から強い衝撃を与えられたせいか、足首までオークの床材にめり込み、踵から膝までは床から垂直に起立していた。 無論、膝より上は脱力のため屈曲し、メイドに腹の断面を暴露する体勢をとるに至った。 腕部は胸部と共に本体から離別したようで、脚部の左右の床に各々が”爆発”のエネルギーに身を任せて散乱していたようである。 頭部はと言えば、当初メイドはどこにあるか気が付かなかったのだが、部屋の中心――自殺の”爆心地”――まで慄きながら進み入ったところでその所在が判明した。 メイドが恐怖に耐えきれず書斎のドアに向き直ると、押し開けたドアの陰に教授の頭部が転がっていたのである。 頭部は元々ドアの正面に位置していたのであろうが、書斎に入る際にドアで無造作に転がしたのだろう。 さらにその頭部は、メイドの言では「してやったり」とでも言いたげな顔つきをしていたようである。 しかし、我々が現場に到着して頭部を観察した際は表情が確認できなかったことから、メイドの視覚履歴を洗う必要があるだろう。
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