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安土城天守の間。
先ほど王雅自身が吹き飛ばしたように見えたその部分は、いつの間にか元通りになっていた。
おそらく王雅が自室に戻るまでに誰かが修繕を終わらせたのだろう。
結構なことだと思いつつもそれらを表には出さず、王雅は自室に入ってまず甲冑の兜を脱ぎ捨てた。
とても戦国時代の武将とは思えない黒瞳黒髪の青年が顔を見せ、まとわりつく青い炎のようなオーラを手で振り払う。
「蓬莱、いるな」
「はっ、ここに控えております」
王雅の呼びかけに、蓬莱の姿が影から浮かび上がる。
方や見る者を射殺すような眼光を秘めた美男子と、華奢な体躯がまるで少女のようにも見える美少年。
どちらも超がつくような美形と言って差し支えない容姿をしているだけに、見る者が見ればさぞ美しい光景に見えることだろう。
「オウロボロスが動きやすいよう手を回してやれ」
「御意に。現在の日の本は、海の向こうの国々と同盟関係にあり、国の戦力を動かすには同盟での承認が必要になるようです」
「回りくどいことだな」
「連合と呼ばれる組織の、この国を代表する者を押さえておけば、余計な邪魔が入ることはないかと具申いたします」
「任せる。あと、オウロボロスの持ち帰った"門"とやらだが、オレが向こう側にいられる時間を試したい。使えるようにさせておけ」
「すべて承りました、王雅様」
言葉を残して、蓬莱の気配も姿も完全に部屋から消え失せたのを確認する。
彼は実によく働いてくれる。蓬莱と名を変える前── 蘭丸 ──と呼ばれていた頃からそれは変わらない。
織田信長として歴史から葬られ、こうして歴史の外側にある可能性の時間を揺蕩って数百年。
ようやく天下人に戻るときがきた。
「さぁ、最初の戦の相手はお前たちだ風雅とやら。その力と生命をオレに見せてみろ」
蓬莱が置いていったのだろう。酒瓶と杯を手にすると、王雅はそれを煽るように飲み干した。
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