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「ここは……屋敷、いや城なのか?」  陽平(ようへい)たちは風雅のまとめ役である琥珀(こはく)の案内で、時非島(ときじくじま)の洞窟奥へと進んだはずだった。  しかしいざ着いてみると、そこは想像を絶する大きさの城の中。  さすがに意味が分からないと、後ろをついてきていた光海(みつみ)を振り返るが、陽平同様に混乱しているらしく、きょろきょろと辺りを見回している。  翡翠(ひすい)も同様にきょろきょろとしているが、手は陽平の服を掴んだままだ。 「洞窟の奥には、この城への抜け道……転送陣があったんですよ」 「理屈はさっぱりわからねェけど、それでさっき洞窟の奥から出てきたのか」 「そういうことです。そしてここが先までの話にあった忍巨兵(しのびきょへい)の城……」 「風雅城イストリア、だったっけか。見た感じ普通の城にしか見えねェけど」  普通の城と呼ぶにはいささか大きすぎる気もするが、それでもこれが特別な城には見えない。  触れてみた感じ、ごく普通に木や石でできた城のように感じる。 「場所は、時非島より太平洋側へ少し行った先の海底になるのですが、忍巨兵のもつ隠形の力によって、通常の方法では見ることさえ適いません」 「ああ。忍巨兵がカメラとかに映らないあの機能のことか」  聞いたことがない話だったはずだが、獣王に植え付けられた知識から当たり前のように引き出すことができた。  さすが忍巨兵を格納する城だけあって、忍巨兵の持つ機能がふんだんに散りばめられているようだ。 「クロスも普段はこの城の中にいるってことか」 「はい。獣王だけではなく、他の忍巨兵たちも……」 「全部で10体にもなる忍巨兵か」  情報の上書きによる知識でどんな忍巨兵がいるのかは大雑把にわかっているが、さすがにどこになにがいるのかまではさっぱりなままだ。  忍巨兵の他にも、紅那衣(くない)を始めとする忍獣たちも格納されているはず。  そう考えるとこれほど巨大な城になってしまうのも頷けるというものだ。 「残念ですが、ここに残る忍巨兵は8体しかいないのです」  琥珀の言葉にまさかと振り返る。 「星王イクスは戦国時代に起動したようなのですが、誰にも何も告げることなく消息を絶っており、戦王ホウガは10年ほど前にあった事故で、共に封印されていた巫女共々行方不明になっています」  見逃したところで行方不明になるようなサイズではないはずだが、おそらく忍巨兵の隠形の力のせいで捜索が捗らないのだろう。  星王イクスと戦王ホウガ。脳裏に浮かぶのは白い鳥の姿をした忍巨兵と、灰色の馬の姿をした忍巨兵。 「その、一緒に行方不明になった巫女の方が無事だといいですね」  光海の言葉に陽平も頷く。  忍巨兵はともかく巫女は人間だ。行方不明になって10年にもなる場合、その生存は絶望的だといってもいい。 「当時の年齢を考えれば、今はお二人と同じくらいの歳になっているはずです」  僅かその歳で忍巨兵の巫女をしていたということは、さぞ優秀な巫女だったのだろう。いてくれたらどれだけ助かる戦力だったことか。 「その、忍巨兵の巫女というのは、どうしたらなれるんですか?」  光海の言葉に琥珀がひとつ頷く。 「賦力(ふりょく)の扱いに長け、かつ忍巨兵に認められた存在である。それだけです」  それだけというが、それがどれほど難しいかは陽平も知識として知っている。  いざなりたいと言ってなれるようなら、琥珀たちも忍巨兵が起動しないと悩むことはなかっただろう。 「じゃあ、私がそれになることもできるんでしょうか?」 「……試して、みますか?」  少し思案した後、琥珀の口から紡がれた問いかけに、光海は迷わず頷いた。
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