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忍巨兵獣王クロスフウガとオウロボロスの忍邪兵の戦いの爪痕は確実に残っていた。
決して軽い被害ではない。陽平たちがいくら気を遣ったところで守れる範囲には限界がある。
切り倒された建物や踏みつぶされた車、人的被害などを数えていけば、被害総額はかなりものになるだろう。
風雅のまとめ役である琥珀の命を受けた陽平の父、風雅雅夫は洞窟での話し合いの後にここを訪れたのだが、その様子を訝しげに眺めていた。
「これほどの被害であるというのに、国連軍が動いた様子がない。報道のヘリどころか人の気配さえないとは」
言ってみればゴーストタウン。当然、戦闘の最中に住民は逃げ出したに違いないが、だとしても人の気配がなさすぎる。
まるでこの街に入ることを規制されているかのような違和感。
「いや、事実規制されているんだろうな」
ここへ来る途中、いくつか国連軍の検問のようなものを見た。
つまる話が国連軍は忍巨兵と忍邪兵の戦いに対して、介入する気もさせる気もないと言っているようなものだ。
「ならばいい加減、軍から正式な発表もされている頃か」
懐からスマートフォンを取り出してニュースを検索する。お目当ての情報は緊急速報としてすぐに見つけることができた。
『繰り返しお伝えいたします。昨晩未明に起きた正体不明の巨大兵器同士の戦いは、地球連合が定める条約の外の戦闘であり、これに連合が肩入れをした場合、どちらか勢力に与したと判断されることが懸念される』
『よって連合はこの巨大兵器の戦いを"特異災害"と認定し、一切の介入をしないことを決定いたしました』
『戦闘で被害の出た地域は"特異災害地域"として封鎖され、国連軍監視の下に厳重に管理されることになります。被災地の皆さんは至急────』
特異災害。この地球で約20年ほど前に起きた事件がきっかけに生まれた制度だ。
雅夫自身、その事件のことは鮮明に覚えている。
あれも忍巨兵同様に巨大な存在が地球を蹂躙した例に他ならない。
ファンタジーRPGからでてきたかのような怪物を前に竜の戦士が現れ、悪夢のような現実を希望に変えたあの事件。
20年前、風雅に身を置く雅夫も明日は我が身と思っていたが、どうやらそのときがきてしまったようだ。
スマートフォンを操作してニュースを消すと、雅夫は鋭い視線で辺りを見回した。
どうやら自分たちよりも相手の方が一手早く動いているらしい。
「いつものことながら後手に回ってしまうのは、我々人間の性か」
音もなく空間が渦のように歪み、そこから巨大な人型が大量に溢れ出してくる。
ひしめき合うように人ならざるものが溢れている様は、さながら地獄にあるという黄泉平坂の先、冥界の入り口であるかのよう。
そこから現れた人型の数はおよそ20体。陽平から聞いていた刀や槍を装備した武士のようなタイプと、報告にない忍者のような姿をしたタイプが半々。
忍者型はおそらく、忍巨兵との戦闘データから生まれた改良型かなにかなのだろう。
「相手の技術力はこちらのそれを上回っているのか。それともよく似せただけの模造品か」
どちらにせよ、これだけの数を出してきたということは、先の敗北から学び確実に獣王クロスフウガの首を取りにきたと見て間違いなさそうだ。
おそらくクロスフウガへの対策も講じられているに違いない。
「ふむ。対して、こちら側の戦力はいかがかな?」
勝ち目がないわけではない。それを見越したからこそ、あそこで話し合いの場を設けたのだから。
「動き出すならば一緒の方がいいだろうとは思ったが、酷であったかな」
我ながら人でなしだなと思う。
『そうではありませんよ。彼女は強いひと。自らその運命を選んでいました』
雅夫の"特別な聴覚"に届いた声が告げる。
『さぁ、これが私たち風雅と彼の者たちの開戦の狼煙!』
どこからともなく飛来した光が忍邪兵の胸を射抜き、爆散させる。
忍邪兵が広く布陣を展開させる中、飛来する二度目、三度目の光が確実の数を減らしていく。
「当たった……のよね?」
目視して射たわけではなかったので、後になって結果が不安になる。
彼女がFPSゲームでも嗜んでいればそういう感情は起きなかったに違いないが、残念ながらその手の経験はなかった。
『ええ、お見事でございます。これほどの腕前、さぞ厳しい修練を重ねられたことでしょう』
「ううん、コウガのおかげよ。ありがとう」
青年執事のような話し方をする供に、彼女は苦笑いのまま首を振る。
雅夫の持つ"特別な視覚"がそれらを捉えた。
海の上に立つのは、弓を構えた緑の巨人。両肩に突き出す大角が彼の者の存在を証明してくれる。
「ははっ、これはすごい。忍巨兵の技術もあるとはいえ、まさかこの距離を勘だけで当てられる腕前とは恐れ入った」
「桔梗光海と、その忍巨兵 森王コウガが牽制します」
『できる限り数を減らします。獣王は私どもに敵を近づけないようお願いいたします』
森王コウガが構えた弓に矢をつがえ、遠く戦地を目掛けて再び矢を放った。
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