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 風雅城イストリア、この忍巨兵(しのびきょへい)と呼ばれる10体もの巨大ロボット兵器を格納するための城は、リードからの来訪者である風雅の一族の現代における拠点でもある。  文字通り地球外の超技術によって生み出されたそれは、城内に生活スペースのみならず、食料プラントや工場といった生産スペースはもちろん、修練などに利用できるアリーナの様な場所まであるというのだから驚きである。  曰く、外観から見たサイズと内部サイズが明らかに異なるため、なにかしら異空間のような場所に設備を設けているのだろうとは技術スタッフたちの言だ。  そんな風雅城の最も重要な場所、忍巨兵の間を前にじっとその時を待つのは2人の女性。  片や天女と見間違うほどに人間離れした美しさを巫女装束に包む風雅の姫巫女 琥珀(こはく)。  その視線は大きな扉に固定されたまま、瞬きさえ忘れてしまったかのように見つめ続けている。  もう1人は琥珀とはいろいろな意味で対象的な、抜き身の刀のような印象を受ける美女。  妖艶なという言葉がこれほど似つかわしい人物もそうはいないだろう。そのメリハリのある体に加えて今にも震え出しそうな豊満な胸に、道行く男性たち目を奪われ、生唾を飲むに違いない。  長い髪を腰の辺りでまとめる紫がかった黒いタイトスカートのスーツに身を包み、まるでそうあることが魅力的であるとわかっているかのように腰に手を当てて立つ女性は、名を風魔 椿(つばき)と言う。 「椿、心配ですか?」  琥珀の問いかけに、椿は微笑みを絶やさぬまま見つめ返す。  今、この門の向こうにいるのは彼女の家族だ。それを心配ではないかと訊ねたつもりが、椿は心配ないとばかりに琥珀の肩に触れる。 「不安にならないで琥珀。私が……私たちが必ず貴女の力になってみせるから」  椿の言葉にそれ以上を言うことができず、琥珀はありがとうとだけ言葉を返した。  過去に起きたある事件が、琥珀のみならず周囲の人間に深い傷を残している。だが琥珀にはそれを知る術はあっても癒す術がないのだ。  謝って済むような問題ではない。かといって時間が解決してくれるのを待つだけというのは、これほど歯痒いものはない。  少しずつ、ほんの少しずつでいいから手を差し伸べてあげられたなら。  そんなことを考えていると、ギギギっという音と共に目の前の扉が僅かに開いた。  どうやら挑戦を終えたのだろう。人が通るには大きすぎる扉の隙間から姿を見せたのは、背格好からその豊かな起伏までもが実に椿によく似た少女だ。 「おかえりなさい、(かえで)さん」 「それで、どうだったのですか」  少女を労う琥珀とは対照的。淡々と報告を促す椿に、楓と呼ばれた少女はわざとらしく溜息をついて見せる。 「契約は成りました。認めていただけたようですよ、忍巨兵とやらには」  どこかトゲのある言い回しだが、意に介した様子もなく椿は頷くと琥珀を振り返った。 「琥珀、これで三つ目──」 「四つ目だヨ。椿姉ぇはどーせオイラのことなんて眼中になかったのかもしれないけどね」  楓の隣に並ぶ少年と言うにはあまりに中性的な容姿の持ち主は、手の中でクルクルと大振りのクナイを弄んでいる。  楓の手にもあるそれは、まぎれもなく風雅陽平(ふうがようへい)の持つものと同じ柄尻に勾玉のはめ込まれた特別なクナイであった。 「言われた通り忍巨兵っていうのと契約したけど、これでオイラたちになにをさせようっていうのさ」 「知れたこと。忍びの役割は忠実な影。あなたたちはこれから琥珀の駒として働いてもらいます」  二人は表情を変えることなくちらりと琥珀を一瞥する。  琥珀が二人に向き直ると、柊と楓の両名が同時に跪き首を垂れる。 「風魔忍軍当主代行、風魔椿の命に従い我らは御身にお仕えいたします」 「この技、この身を以てあなたの言葉を成し遂げてみせます」 「では、お二人にはある人物の協力をお願いいたします」  琥珀の言葉に二人は顔を上げる。  表情を変えている間はわかりづらかったが、こうして並ばれるとよくわかる。  柊と楓は双子の兄妹だ。その顔立ちは実によく似ている。  長女の椿とはやや年が離れていることもあってか、雰囲気などが似ていると感じることはあっても、ここまで似ていると思ったことはないのだが。  思わず風魔の家族関係についてを思案しそうになり、余計なことだと琥珀は小さく頭を振った。 「当面の間は見習い忍者である風雅陽平と、その忍巨兵 獣王クロスフウガの力になってあげてください」 「風雅陽平……」 「忍巨兵の忍者という意味では私たちの先輩にあたるわけですね」 「はい。それと学校でも一学年上の、お二人の先輩ということになります」  琥珀の言葉に、双子の忍者が初めて驚きの表情を見せた。
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