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「あれだけやっておいて、ずいぶんと素直に参ったしてくれるンだな」
正直、勢いで組み伏したはいいがそれだけで終わるとは陽平自身微塵も考えていなかった。
なんなら後輩の手から落ちた針に痺れ薬でも塗っていようものなら、この状態からでも十分に負ける可能性だってあったはず。
いったいどうして……
「センパイはまだ足りない感じですか? お望みでしたら相手をしますが」
「別にそういうわけじゃねェけどさ」
「でしたらそろそろどいていただけると助かります。それとも、女に馬乗りになることをお望みですか? でしたらそちらの相手も」
そう言われて慌てて飛び退くと、後輩は服の汚れをはたきながら体を起こす。
こちらと違って息一つ切らせていない。どう見ても後輩にはまだまだ余裕があったように見える。
それに、もう一人いたはずだ。
朝の一件があって常に二人以上の伏兵を警戒していたつもりだったのだが、結局もう一人いた少年の方は出てくることはなかった。
「とにかくクナイを返してくれ。大事なものなんだ」
とくに渋るでもなく、陽平の差し出した手に乗せられる忍器、獣王のクナイ。その重さを確かに握りしめると、改めて奪われたことを心の中で反省する。
「それで、お前さんさっき風魔の忍者だって言ってたけど」
「はい。改めて自己紹介をさせていただきます。私は楓、風魔の家に生まれた忍者です」
「え、まじで? 風魔ってあの風魔? ひょっとして俺が知らねェだけで忍者っていっぱいいるの?」
思わず食い気味に質問をしたことで驚かれたのか、少し引き気味で後輩──楓は頷いた。
「正確には私たちは昔、風雅に力を貸した風魔忍者の末裔に当たります」
「私たち……」
「そうそう。オイラたちのこと」
いつの間にそこにいたのか、すぐ隣から声をかけられ思わず飛び退いてしまう。
そこにいるのは先ほど校舎内で遭遇した楓によく似た顔をした少年だった。
「へへ、油断したならアンタの負けだよ」
「やろォ……」
その言葉を知っている以上、この少年は先ほどの一件を一部始終見ていたということになる。
まるで作ったような表情の楓に比べて、この少年はずいぶんと愛嬌のある表情をしている。屈託のないという表現が似つかわしい笑顔を崩さない。
そこがまた気味が悪いのだが。
「じゃあ、オイラも自己紹介を。学校には風間柊で通ってる1年生だよ、せんぱい」
「取って付けたみてェなセンパイ呼びしなくてもいいっての。どうやら忍者としてはお前さんたちの方が何年か先輩みてェだしな」
風間柊と楓、よく似ているからおそらく双子の姉弟なのだろう。同じ格好をされてしまえば見分ける方法は楓にあって柊にない二つの膨らみくらいだろうか。
「なんとなく察しましたので念のため言っておきますと、私たちは確かに双子ですが、柊がいちおう兄に当たります」
視線から思考を読み取られたのか、思い切り考えが筒抜けでなんだか恥ずかしいやら悔しいやら。
ということは、おそらくそこを見ていたことも筒抜けなのだろう。
「か、楓の方が妹、なんだな」
「動揺が出ていますよ、センパイ」
「うっせェ。それで、その風魔の忍者兄妹がどうしてこんなことを?」
「あ、話題を逸らした」
「だからうっせェよ。それにさっき風雅に協力してたって言ったな」
柊に突っ込まれながらも強引に話を戻していく。
「私たちが賦力を扱えるのも、昔のことが現在にも繋がっているなによりの証拠です」
賦力────風雅の忍者、及び巫女たちの術の要となる力。
これは生命体に限らず万物に宿る力で、他者を賦活(※活性化)することのできる要素を差す。
例えるならば「その人がいるだけで元気を貰えるよう存在」や「身に着けることで、いつもよりも力がみなぎる装飾品」などが挙げられる。
これはすなわち、外部から得た賦力によって、対象は力を活性化されたということになる。
この現象を意識的に引き出し、事象だけに留まらず抽象的なことさえも賦活する力。その強弱や対象さえも操ることができるのが風雅の忍者であり、巫女なのである。
ようするにその賦力という曖昧なものを力として認識し、あまつさえ扱える存在は、この世界では風雅にまつわる人間だけということだ。
「私たちは家のしきたりで既に一人前の忍者として認められはしましたが未だ若輩の身。そのため上忍に当たる姉の采配で仕事を任されています」
つまり風魔の忍者は3人姉弟ということらしい。しかも上忍ということは、楓たちの姉はそれ以上の実力者ということになる。
自分の知らないところで父、雅夫のような強い力を持った忍者たちがいるものだと感心する。
「今回私たちに与えられた任務内容は、風雅の忍巨兵を起動すること。そして風雅陽平、あなたの下につくことでした」
「俺の下に……なんでまた。いや、それより忍巨兵を起動するって、じゃあお前たちも」
「はい。私たち二人、忍巨兵と契約を交わした風雅の忍者ということになります」
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