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 屋上でのやりとりの末、この風間(かざま)──いや、風魔(ふうま)の兄妹のことを光海(みつみ)にも紹介しておきたいと伝えると、二人は顔を見合わせて示し合わせるでもなく弓道場の方を見下ろした。 「桔梗光海(ききょうみつみ)センパイですね。当校の2年生で、弓道部のエース。性格は穏やかだけれど、芯のあるタイプ。誰とでも親しくなれる人に好かれやすいタイプですね」 「アニキの幼馴染で、大会なんかは総舐めレベルの弓術の使い手で、最近になって忍巨兵(しのびきょへい)森王(しんおう)コウガの契約者になった」  スラスラと暗記した情報を口にする二人に、思わず苦笑いを浮かべる。  当たり前とでもいうのか、陽平の周囲の人間のことまでしっかりと調査済みということらしい。  できればところ構わず弓を持ち出しては幼なじみを威嚇してくるという情報も書き足してもらいたい。 「二人が知ってても光海の方はお前たちのこと知らねェからよ」 「そだね。オイラたちも後輩らしく、せんぱいには挨拶しておかないとね」  別にそういう意味ではないのだがと思いながらも、どうせ紹介は必要なのでこだわることでもない。  とにかく屋上から降りようと階段を促した陽平に、散らばった忍具を回収し終わった(かえで)が小さく頷く。 「(ひいらぎ)も……」  足を止めた柊を不審に思って声をかけたのだが、肝心の柊はスマートフォンを片手に、先程までとは打って変わった真剣な表情を見せる。 「椿姉ぇから……恐らく例の忍邪兵(しのびじゃへい)の一味と推察される怪物が現れたって」 「場所は!」 「前にアニキたちが戦ったところ」 「翡翠が目的じゃねぇのか。俺たちを誘っていやがるのか?」  少なくとも翡翠は陽平の家にいるはず。それを直接狙って動かないということは居場所を察知できるわけではないようだが。 「とくに動きはないようです。以前の個体のように異空間から現れたかと思うと、何かを探してウロウロと歩き回っているそうです」  楓もスマートフォンに来ただろう情報を確認すると、伺いをたてるように陽平に視線を向ける。  おそらくは陽平たちを、いや翡翠と忍巨兵を探しているのだろう。  直接学校に来ないということは、少なくともこちらの身元がバレていないだろうことはわかる。 「ところで怪物ってのはなんなンだ?」  先の戦いで散々目にした鎧武者や忍者といった表現でなかったことに首を傾げる。 「わかりません。私たちに来た連絡には“獣に似た外見をもつ怪物”としか」 「忍邪兵のやつらは……獣っぽさは感じなかったけどな」 「別勢力と考えても良いのかもしれませんが、正直なところそう人知を超える輩がいるとは考えにくいです」  楓の言葉はもっともだ。  ならば同勢力の新たな敵と考えるのが自然だろう。 「なんにせよ、その姿を見てから判断すればいいと思うよ?」 「だな。ここであれこれ言い合ってても仕方がねぇ」  しかしそう言いながらも陽平が動く気配を見せないのが腑に落ちないのか、柊も楓も不思議そうに次の言葉を待っている。  正直なところ迷っていた。  陽平の戦う目的は、あくまで翡翠を守ること。そして身内に降りかかる火の粉を切って捨てること。  陽平は正義の味方ではない。だからこそただ現れただけの相手に、いきなり切っ先を向けるということにピンと来ないだけだ。  幼い頃の記憶がなかった陽平は、誰かに望まれる姿でありたい一心で忍者になりたいと思った。  記憶に残った琥珀との約束を守るために忍者を目指し、両親の過剰な教育から学びを得た。幼なじみの望む風雅陽平であろうと努力もした。  いつか誰かに、私の知ってる陽平じゃない──という言葉を口にされることを恐れていたから。  だけど翡翠は……  そうだ。あれらがいるかぎり翡翠が安心して過ごすことができないのだとしたら、陽平のすべきことは一つしかない。 「とにかく相手の出方を伺うしかねぇか。行こう!」 「あいよ!」 「はい!」  陽平が獣王のクナイを取り出すと、柊と楓もそれに倣ってそれぞれ青と赤の勾玉を具えた大振りのクナイを手にする。 「風雅流──忍巨兵の術!」
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