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 先の戦いで瓦礫の山と化した街並みは、国連軍から既に“特異災害地域”として認定されていたため、本来であれば人の姿はないはずだった。  だがこればかりは運が悪かったというより他ない。  軍より残骸の回収と調査に来ていた者たちは、まるで大型の獣に食い散らかされたように無惨に打ち捨てられている。  少なからず武装をしていたにも関わらず、抵抗らしい抵抗もできず一方的に蹂躙されたと見られる現場に、双の武将ソーマとアムリタは暇を持て余すようにそれぞれが手近なものを破壊してみせる。  パフォーマンスというわけではない。ただ純粋に行き場のない感情をぶつけているだけにすぎない。 「これがこの国の戦力か。歯ごたえがァ無さすぎるんじゃねぇかァ?」 「しゃーないって。本命に期待しよや」 「期待はずれじゃァなきゃいいんだけどなァ?」 「そら、あちらさんにがんばってもらうしかないなわ」  アムリタの視線の先にそれは唐突に現れた。  文字通り風のような速さで駆けてきた白い獅子の機獣、忍巨兵(しのびきょへい) 獣王クロスの姿に、二人の武将は待ちかねたとばかりに興奮を露わにする。  身につけた装束は弾け飛び、双の武将はそれぞれ巨大な怪物へと姿を変えていく。  片やソーマは四足の下半身と人型の上半身を持つ虎の獣人。その爪や牙は獣王に勝るとも劣らない。  アムリタは蛇の下半身と頭部を持ついわゆるナーガの姿。とぐろ巻く体は硬い鱗で覆われ、並の装甲より余程頑丈に見える。  数秒と経たずに20メートル以上はあろうサイズにまで巨大化した双の武将に、陽平(ようへい)も思わず目を丸くしてその姿を見上げる。 「なるほど。たしかにこいつは怪物に違いねぇ」 『油断するな、陽平』 「わかってら! クロス、変化だ」 『応ッ! 変化──獣王忍者クロス!』  影衣に身を包んだ陽平が転身、同化した獣王クロスが人型の忍巨兵へと姿を変える。  獲物を見つけた獣らしく素早いソーマの爪撃を上手く躱し、風を使って舞い上がった砂塵を目眩しに利用する。 「ちょこまかと逃げてんじゃァねぇぞ、忍巨兵とやら!」 「待ちぃソーマ! 深追いしたらあかん!」 「なんだと!?」  直後、隆起した地面が巨大な棘となってソーマの着地点から襲いかかる。  四足の爪が岩の棘を砕き、虎の獣人らしく危なげなく着地する。 「なんや、ウチらを相手に奇襲かぁ?」  頭上から降り注ぐ大量の賦力(ふりょく)エネルギー手裏剣を、アムリタは長い尾を振り回して容易く叩き落としてみせる。  どちらの攻撃もタイミングとしてはかなり絶妙だったのだが、どうやら一筋縄ではいかないらしい。 「ちくしょう、こいつら雑魚じゃねぇな。あのオウロボロスとかいうやつと同じくらいは見た方がよさそうだ」 「問題ありません、センパイ」 「そうそう。奇襲がだめなら正面から攻め落とすさ」  獣王クロスに寄り添うように現れたのは(ひいらぎ)の駆る青い狼の忍巨兵 。そして(かえで)の駆る赤い(おおとり)の忍巨兵。 「変化──牙王忍者ロウガ!」 「変化──鳳王忍者クウガ!」  胸部に狼の頭部と、背には重なる刃の体毛を備え、鋭利な爪を持つ青い忍巨兵ロウガと、刃の翼と真っ赤な鎖状の尾が印象的な赤い忍巨兵クウガの出現に、ソーマとアムリタの表情が歓喜に震える。 「ハハ! 鉄の野郎から聞いてないやつがァ出てきたなァ!」 「ならコイツらもウチらの獲物やでソーマ!」 「やってみろっちゅーの!」  双の武将それぞれから繰り出される力任せな攻撃を難なく躱し、牙王ロウガの回し蹴りがソーマの後頭部を捉える。  前のめりによろけはしたが、ダメージはほとんどないのかすぐに腕を振り回して反撃をしてくる。 「牙王ロウガは忍巨兵の中でもトップクラスに接近戦に秀でた性能をもってんだ! そんな大雑把な攻撃で──」  大木のような腕の一撃を身を低くしてやり過ごし、流れる動作でソーマの懐に滑り込んで顎を真上に蹴り上げる。 「オイラたちを倒せるとかさすがに舐めてるよね」 「この、クソイヌがあああッ!!」 「なにしてんねんソーマ! そないなやつウチが……ってなんやこれは!」  長い蛇の体をしならせ不規則な動きでロウガに迫るアムリタを、上空から伸びた鳳王クウガの鎖が絡めとる。 「この鳳王クウガは忍巨兵単独で空戦能力をもち、かつ間接攻撃に秀でています。つまりロウガとクウガは2つで1つの忍巨兵なのです!」  アムリタの体表に絡みついた尾羽の鎖、炎鎖(えんさ)が連鎖爆発を起こす。 「並みの相手ならばこれで木っ端微塵……と言いたいところですが、どうやら火力不足のようですね」  黒煙の中から姿を見せるアムリタには、ダメージらしいダメージは見当たらない。  しかしその表情には、クウガに対する怒りがありありと浮かんでいる。 「なにかおかしくないか? あいつら、明らかにクロスよりも戦闘向きの装備があるにも関わらず、攻撃に賦力が足りてない気がするンだが」 『そのようだ。その理由はおそらく牙王と鳳王にある』 「そういえばさっき二人が忍巨兵に"眠ったままの機能がある"って言ってたような」 『機能というよりも、どうやらあの牙王と鳳王はまだ完全に目覚めてはいないようだ』 「ってことは、あの二人は忍巨兵を自前の賦力だけで動かしてるってことかよ!?」
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