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『共に戦おう。……すべては、ただ一つの愛を貫くために』
ただ一つの愛を貫く。それは、自分たちの合言葉である。
この国では、結ばれるべき相手を法が定めている。それ以外の存在と愛を交わそうとした者は――否、好意を抱いた者はそれだけで“悪魔にたぶらかされた者”“悪魔の子”とされ捕まえられてしまうのだ。
自分達が犯したとされた罪。それは、愛するべきではない者を愛したということ。国が定めた相手ではない者と恋に落ちたという、それだけのことなのである。
軍に補足され、抵抗した者は射殺され。抵抗せずに大人しく従った者には、過酷な“洗脳”と“調教”が待っている。それは、己の心を捻じ曲げられる行為。愛した人を無理やり忘れさせられ、最悪の場合は政府が定めた“優良遺伝子の持ち主”と強引に体の関係を結ばされることさえあるのだという。恋人を裏切るくらいならばと、射殺される方を選ぶ者が後を絶たないのは、つまりそういうことだった。
――俺達は、この国と戦う事を選んだ。でも……この組織に来た時は、出来ることなら人殺しなんかにはなりたくなかったんだ。例え生まれながらの犯罪者、サイコパスだとレッテルを貼られていたとしても。誰かの命を奪うような行為なんて、それだけは絶対嫌だって思っていたんだ。
侑斗の三人の同期のうち、特に莉菜が最も侑斗の考え方に近かったように思う。人を殺すことなく、理想を叶えようなんて甘ったれているというのは自分達もわかっている。それでも、自分達と敵対している郡の者達にも親がいて、恋人がいて、もしかしたら子供だっているかもしれない。そういう存在から、永遠に父や母、子を奪うことになるのかもしれないと思うと、どうしても引き金を引く決意など出来なかったのである。
『いいじゃない。……侑斗はそれでいいって、私は思うわ。翔も瑞穂も、貴方のそういう優しいところが好きなのよ。……敵であっても、人の痛みを想像することができる。こんな国だからこそ、こんな世界だからこそ……そういう優しさを持ち続けられることが、何より重要なことだわ』
冷静で冷厳、落ち着いて非情な選択を下すこともできる翔。
いつも明るく元気で、みんなの盛り上げ役であった瑞穂。
そして大人っぽくて、みんなのブレーキ役にもなっていた優秀な頭脳派である莉菜。
彼らに対して、自分は人より秀でていると言えるものなど何も持ってはいなかった。それでも彼らが一緒ならば、そして敬愛する“帝王”の元ならば、いつか自分達の夢を叶えることができるとそう信じてやまなかったのである。
その夢が、脆くも崩れ去ったのは一年前のこと。
翔と瑞穂の二人が――政府の手に落ちてしまったのである。
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