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 ビルの正面玄関付近に仕掛けた爆弾は、あくまで陽動。だが、陽動だとすぐにバレるようでは目的は達成されない。侑斗は莉菜と共に、教団に奪われた宝を奪い返す為にここにいるのだから。  まだ連中は混乱しきっていない。だから、侑斗は歯を食いしばってさらにもう一つの爆弾の起爆スイッチを押した。爆弾を作る技術は侑斗が本来持っていたものだが、その“使い方”を教えてくれたのは翔である。技術はあっても使う頭がなかったのが侑斗だった。実際のところ彼がいなければ、侑斗は三年前の段階で教団に捕まるか死んでいたところだろう。 『お前の力は、俺達全員の為に大いに役に立つ。教団も、レジスタンスに狙われていることは十二分にわかっているはずだ。その隙を突くのは容易なことじゃない。……そして、お前の“絶対に誰も殺さない”ポリシーが向こうにバレれば、それだけ不利になるのを忘れるな。それは即ち、人質が効かなくなるってことでもあるからな』  眼鏡の奥から鋭い眼光を除かせて、いつも翔はそう侑斗に言い聞かせた。あまり表情を変えることのなかった彼。それが、幼い頃からの環境のせいである、というのは本人に聞いた話である。――仲間内には、親に虐待されていたり、捨てられたという者も少なくはなかったのだ。俺は親戚に保護されたから全然幸せな方だったよ、と翔は平然と言ってのけたが。その背中には、明らかに切りつけられたような酷い傷跡が残ったままになっていたころを、侑斗は知っているのである。  翔は一見冷徹に見えて、その実本当はとても優しく繊細な人間だった。侑斗と皆のために、真っ先に手を汚すことを選んだのも彼である。――初めて人を殺した日、彼は誰もいない部屋で電気を消して泣いていた。きっと、それを知っているのは侑斗だけなのだろうけど。 『どんな誇りよりも大切なのは、お前が生き残ることだ。……お前の信念は素晴らしいものだと思う。けれど、お前が生き残る為の傷害にしかならないとなったらその時は、躊躇いなくそれを捨てることを選べ。何度でも言う。お前が生き残ることが一番肝心だ。お前の高い爆発物の知識と技術は、組織全体の宝になる。……もちろん、俺にとってもな』  持て余していた技術の有効活用法を教えてくれた、翔。その翔の幼馴染だったのが瑞穂だった。昔から、二人は友人というよりも――兄妹のような関係であったのだという。翔経由で侑斗は瑞穂と出会い――莉菜と出会ったのは、その瑞穂経由だった。あまり人付き合いの得意ではなかった莉菜が、唯一心を開ける相手が瑞穂だっただという。天真爛漫で、莉菜のことも姉のように無邪気に慕ってくれる瑞穂は、彼女にとっても救いであったに違いない。  自分達はやがて、同じ秘密を共有し合い――お互いを認め合う、掛け替えのない仲間となった。もちろん、友人と恋人、という違いはある。でも、侑斗はけして、莉菜と瑞穂と翔に“戦友”という意味で区別をつけたことはない。――その結果、自分と莉菜が最後に残るというのは、一種運命のようなものを感じなくもなかったけれど。
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