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ダレンマ元帥が、一体どの国からやってきて、元々はどういった人物であったのかは誰にもわからない。日本人ではないことは確かなようだが(そして、殆ど特定の宗教がなかったこの国であるからこそ、新興宗教を立てて人々を洗脳することも難しくないと思ったのかもしれない)、未だにその実体は謎に包まれていると言っても過言ではない。
特殊な魔術か超能力でも使っているのではないか、という説もあった。何故なら、長い間実質無宗教であり――むしろ、宗教アレルギーさえあったこの国を乗っ取るその手際は、不自然なほど鮮やかであったのだから。
衆議院議員選挙にて、元帥が立ち上げた“アリデール党”から次々と当選者が出た。最初は水面下での動きだったのが、やがて徐々に、確実に党員が増えていき、いつしか当時の第一党だった“国民平安党”を凌ぐ人数まで議員数が増加。与党になった彼らは、次々と自分達に邪魔な人間を排除していった。人道派で知られた前総理大臣も、極めて優秀で知られた官房長官も、災害の復興支援に尽力した大臣達も次々と。ある者は失職し、ある者は不慮の事故に見舞われた。――人々が危機感を感じた時にはもう、彼らの“日本支配”は殆ど完成してしまっていたのである。
ダレンマが行った政策は、ダレンマ(本人いわく、アリデール神のご意思、だそうだが)に都合の良く身勝手なものばかりだった。特に、治安維持改訂法の実施と、優良思考保護法は凄惨としか言い様がない。ダレンマに背く者は国家反逆罪に問われてまともな裁判も受けられないまま処刑され――そして、人々はダレンマが許した存在としか、恋愛することを許されなくなったのだから。
『神の意思に背く者は、悪魔の使いです!私はこの世から悪魔の使いを排除し、この世界に真の平和を齎すために遣わされたのです!』
冷静な人間ならばまず疑うだろう。こいつは頭が湧いたのか、あるいは相当イカレているのかと。だが、“アリデール神”の存在と、男のカリスマに魅了されつつあった民衆はその“冷静さ”を完全に失っていた。何が厄介って、ダレンマは実に“優秀なイカレ野郎”だったことである。彼のおかげで今まで手をこまねいていた多くの災害復興、支援制度が整ったのも事実であることは間違いない。彼は邪魔な人間のみならず、汚職政治家や無能な政治家も軒並み追い出していった。そのトンデモ思想さえなければ、非常に有能で立派なリーダーだったのである。
多くの――ダレンマの思想に心酔する者達は、次第に男の強引さに疑問を持つことがなくなっていった。自分に被害が及ばないのなら、多少そのやり方が強引であろうと疑問があろうと興味をなくしてしまうのが人間というものである。唯一――彼に嫌われた思想を持ち、彼が気に入らない相手と恋をしようとした人間達だけが、生贄として差し出されることになったに過ぎない。
そのダレンマを倒し、この国と取り戻すため――レジスタンス組織・ソルジャーチルドレンは結成され、戦い続けてきたのである。侑斗達もまた、同志達と共に戦いに身を投じた一人だった。
――俺はちょっと爆発物の扱いが得意なだけの一般人だけど。あいつらは違う。翔と、瑞穂と、莉菜と……帝王がいてくれるなら!きっとこの戦いに勝利して、未来を掴むことだってできるはずだ!
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