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 計画の話をした時、当然ながら真島は苦い顔をした。 『お前達の気持ちは痛いほどわかっているつもりだ。……私とて、妻が亡くなった時は命を捨ててでもそうしたいと思ったのだから』  でもな、と静かに自分達のボスか告げる。 『生きている人間と、既に亡くなった人間。どちらが重視されるかは明白だろう。厳しいことを言っているのはわかっている。お前達にとって耐え難いことであるというのも。……でも、よく考えるんだ、侑斗も莉菜も。……君達のその行動を、本当に翔と瑞穂が喜ぶと思っているのか?そうやって君達にもしものことがあったら、彼らは文字通り死んでも死にきれんだろうさ』  真島の言葉は実に正論で、妥当で。どちらが理にかなったことを言っているのかなど明らかだった。もしも真島が自分の感情を優先して自分達のように突撃をし、命を落としていたら――この組織そのものがなくなっていたことは明白。そうなれば、自分達はもっと酷いことになっていただろう。今日まで生きていなかった可能性の方が遥かに高い。帝王が帝王として、冷静な判断をしてくれたからこそ今の自分達全員がいて――感謝してもしきれないことは、重々承知しているのである。  でも。 『……真島さん。俺達の大切な二人は、あの墓の下にいないんです』  死んだら人の魂が何処に行くかなんて、自分達にはわからない。ダレンマ元帥は、死んだ魂が無事に天国に昇るためには、綺麗な肉体が必要であると人々に説いているのだそうだ。大きな怪我をした遺体であっても、可能な限り綺麗に整えて洗礼の儀式をさせることにより、肉体から魂が解き放たれて天国に昇っていくことができるのだと。  だからアリデール神教では、死んだ人間の司法解剖という行為が禁じられている。死者の肉体にメスを入れることで、まだ肉体にとどまっている魂に傷をつけてしまうことになり、そうすると天国で神様に迎えてもらうことができなくなってしまうからだそうだ。  ゆえに、人体実験や解剖なんてマネができる遺体は――生まれつき神に愛されていない者達、悪魔に魅入られた背教者達の遺体に限定されるのである。どうせメスを入れようと入れまいと、背教者が神に受け入れて貰えることはないし、当然天国になど行ける筈もない。だから、いくら傷つけようとボロボロに損壊されようと全く問題がない――というのだ。  そんなことはないというのに。――死んだ肉体に魂が残っている、だなんて侑斗は信じていないけれど。それでも、そこにあるのは大切な者達の面影であり、愛し愛された記憶そのものだというのに。死因を解明するためでもなんでもなく、ただ新薬の実験や脳の構造を明らかにするためだけに好き勝手切り裂かれて最後は挽肉同然にされるなんて――どうしてそんなことが許されるというのだろう。  二人は確かに――その温かな手で、声で、自分達と共に生きてきた存在だというのに。
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