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 電子ナイフでそっと窓ガラスを丸く切る。技術は進化したが、未だに窓は電子ロックでないことが多い。不法侵入者は昔から窓から入ってくるって相場が決まってるんだけどな、と思う侑斗である。おかしなところで予算をケチるものだから、自分達のような存在に侵入を許すことになるのだ。 ――しかも、あの防犯カメラの位置は間違ってるよなあ。  予めビルの構造と同時に、カメラの位置や向きも調べてある。一部のカメラが本当は何も映していない“虚仮威し”であることも、首振り設定になっていることも――実際あってはいけない場所に死角があるということも。  その理由には想像がつく。此処は軍の施設ではあるものの、そうそう高価な品や重要書類を保管してあるわけでもない。奴らからすれば、小さな支部の一つ――気をつけるべきは、朝礼時にだけ有難い挨拶にやってくる元帥の身の安全を確保することだけである。  軍の警備も、他の本部と比べれば大したことがない。そもそも配備されている人員も少ない。連中も多分“あんなもの”を自分達が取り返しに来るとは全く思っていないのだろう。なんせ此処は、捕まえた“背教者”を調教・洗脳する設備も整っていない。今は一時的に捕まえておくための留置所も空ときている。――だからこそ、自分達にとっては腹立たしいとも言えるわけだが。  こういった施設の警備を手薄にする代わりに、ガチガチに防御が固められているのが元帥の主な仕事場と居住区である。屋敷どころか、屋敷の敷地に入ることさえ何十ものチェックを通らなければいけないというのだから笑うしかない。確かにテロで狙われるとしたらダレンマその人だろうが、国家予算のつぎ込み方があまりにも偏りすぎているではないか。――消費税40%なんで馬鹿げた税率を設定して国民から血税を巻き上げているくせに、その大半はダレンマの個人警備と趣味に当てられているらしいというのだから阿呆らしすぎる話である。  それでも、国民の多くから不満の声が上がらないのだ。――上がらないことそのものがおかしいと、洗脳されきった人々は気づかない。上がった税率を誤魔化すために、多くの製品そのものの値段が異様に下げられていることにも、それで各企業の利益が著しく低下しているのも、結果人々の給料そのものが2000年代の七割以下まで落ちていることも。  おかしいことをおかしいと言えば、言った者が異端児とみなされ捕まえられてしまうような世界。狂っていることに気づかない者と、気づいても声を上げられない者ばかりが溢れているなんて、本当にイカレた話である。 ――カメラは窓の方をきちんと向いていない。窓際ギリギリに立てばカメラに映ることもない。一人ずつ慎重に侵入していけば問題ないだろう。  窓ガラスを切ることには成功。ゆっくりと手を付き入れて非常に原始的な鍵を外すと、窓を開けて中へと足を踏み入れた。まだ、正面玄関付近の混乱は続いている。騒ぎの声はここまで聞こえてきていた。――当面混乱していてくれなければ困る。侵入しつつ、侑斗は三つ目の起爆装置を作動させていた。  今日のために、先んじてこのビルと敷地内に侵入し、建物の設計図を盗んでしこたま爆弾を仕掛けておいたのである。正面玄関付近、敷地内に仕掛けた小型爆弾もまだ多い。いずれ爆発物処理班がやってきて対応しにかかるだろうが、連中のことだからまず元帥を避難させることを優先するだろう。その目は当分、元帥の身の周りの安全に集中する。もっと言えば、処理班の初動がかなり遅いことも織り込み済みである。これだから、大規模テロを想定したマニュアルをもっとしっかり組んでおくべきなんだよ、と侑斗からすれば呆れるしかないわけだが。
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