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「ねえお兄ちゃん」
「ねえお兄ちゃん」
振り向いたお兄ちゃんのとぼけた顔はいつもと同じ。
でもちょっとずつ変わってた。
物心ついた時にはもうそこに居たお兄ちゃん。
一人じゃ怖くて行けない公園も、お兄ちゃんと一緒なら平気だった。
転んでひざをすりむいても、お兄ちゃんにおんぶしてもらえると思うと少しも痛くなかった。
「ねえお兄ちゃん」
首を傾げるその顔は、夕暮れあたしの手を引いてくれたあの時の笑顔そのまま。
「ねえお兄ちゃん」
お兄ちゃん気付いてた?
お兄ちゃんがあたしのホントのお兄ちゃんじゃない事なんて、あたし小学校に上がる前から知ってたんだよ?只のご近所さんだってね。
「ねえお兄ちゃん」
二人で遊んだ溜池で、足を滑らせて池に落ちてびしょ濡れになったあたしを背負って家まで連れてきてくれたお兄ちゃん。
あたしが小学校を卒業する時には高校生になっちゃったお兄ちゃん。
「優香も中学生かー」
あたしのセーラー服姿を眩しい物でも見るような眼で褒めてくれたお兄ちゃん。
「ねえお兄ちゃん」
何時になったら妹扱い辞めてくれるの?
何時になったら一人の女の子として見てくれるの?
この春お兄ちゃんは都会の大学へ進学する。
「ねえお兄ちゃん」
お兄ちゃんの事、ずーっとお兄ちゃんて呼びたいよ。
高校生になっても、大学生になっても。
社会人になってもずっとお兄ちゃんでいて欲しい。
「ねえお兄ちゃん」
でもね、困った事があるの。
何時までもお兄ちゃんで居て欲しいのに、心の中の誰かが言うの。
「妹辞めたいなあ」
「妹としてのあたしじゃなく」
「お兄ちゃんの隣に居たいな」
「ねえお兄ちゃん」
わかってるの。
あたしがお兄ちゃんを、お兄ちゃんと呼んでる限り、きっとあたしはいつまでもお兄ちゃんの妹。
お兄ちゃんをあたしのお兄ちゃんの立場に縛ってるのはきっとあたしなんだ。
「ねえお兄ちゃん」
あたし頑張るよ。
お兄ちゃんが大学終えるまでには、お兄ちゃんの事名前で呼べるように頑張るから。
「ねえお兄ちゃん」
だからもうしばらくお兄ちゃんと呼ばせてね。
「ねえお兄ちゃん」
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