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徳松の体が強張った。基本的には己に人ならざるものは見えぬはずなのだ。人ならざるもの、いづの血を引く敦賀屋兄弟と共に暮らし人ならざるものの依頼を受けるようになったからとて徳松の体は完全に馴染んでいるわけではない。気持ちがどうであれ、肌は泡立つ。
「徳松はん?」
お治が奥にいた吉司を連れて戻って来た。動かない徳松の肩をとんと吉司は叩いた。
「あ」
振り向いた徳松の体越しに吉司とお治にも子どもが見えた。吉司は顔を曇らせた。
「徳松はん、この子が見えはるんどすか」
お治は可愛い丁稚はんやねえと子どもの視線になるよう屈んだ。
「あのう、敦賀屋はんは人ならざる方々の依頼を受けてくださるんでっしゃろか」
子どもは再び尋ねた。
「受けますよ」
お治は微笑んで答えた。安心したのか子どももふんわりと笑った。
「お使いできはったん?遠かったでしょう。さ、お上がり」
お治が子どもを敦賀屋の中へと導く後ろで、徳松はいつも以上に顰めっ面の吉司に声を掛けた。
「あの子は・・・?」
「あの子は人の子どす。徳松はんにも見えるし往来を歩いてはる人にだって見えます」
「どういう・・・」
「あの子は人の子どす。せやけど暮らしているのは向こう、なんどす」
人の子がなぜ、とは吉司は思わない。吉司も人の子であったが向こうで暮らしてきた。そして天狗になった。
「どんな理由があるのか知りまへんけど、あの子はまだちゃんと見目相応の年なんやと思います。まだ向こうで暮らし始めて長くはないでしょう」
徳松はううん、と唸った。
「なんどすか」
「長さの感覚があたしとは違うさかい。長いといっても八年くらいは経っとるんやろか」
「ああ。はあ。そうどすね」
子どもはきっと生まれた頃から向こうで暮らしてきたようだと吉司は考えていたのだった。
その子どもはというと敦賀屋の中に入った途端、輪郭がはっきりしたようにお治には見えた。表にいた時には感じなかったがこの子どもはほのかに光っているとでも言うのだろうか。なんだか白っぽいのだ。それがはっきりくっきり見えるようになったのは外よりは暗い室内に入ったからか。それとも人ならざるものが過ごす向こうに多少は近い敦賀屋に入ったからか。
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