呪いのような言葉

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物心ついたときから、求められる最高の数字は「100」だった。 子どもの時から、努力や最大限の力を発揮しろと、周囲から100%という物差しで測れない数字を求められる。 「残念だが、君との契約はなかったことにしてもらいたい。君の音は彼女の声にあわない」 寝耳に水とはこういうことを言うのか。 あまりにも受け入れられない言葉に、聞き返してしまった。 「どういうことですか?」 「彼女は、あの年にしては珍しい透明感があって艶のある高音の声が、最大の武器だ。君のベースは、音が響きすぎて彼女の声を時折かき消してしまう」 親友が始めたバンドで、やっとメジャーデビューが決まったとき、俺は一人事務所の社長によばれた。 「待ってください!彼女の声に合わせられるよう、どんなことをしても努力します」 「努力しても無駄だ。この業界には、彼女の歌に合わせられるプロなんて、たくさんいるんだよ。君は、他のメンバーに比べて、このバンドだけに絶対必要な大した技術も、特殊な音も出せるわけではない。どこにでもいるようなベーシストだ。どんなに努力しても、ここまでが限界だ」 鈍い胸の痛みを感じ、これ以上、社長の顔が見られずに窓の外に目線を向けた。 立ち並ぶ建物が二つに割れているかのように、周りが歪んで見えた。
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