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Youtuber怪奇現象研究会
「夏の日差しの下! そんな危険な怪事件に挑むのは! そう! 皆さんご存知怪奇現象研究会リーダーのこの私、ナナコちゃんでーす! 現場からお送り致しておりまーす!」
ビデオカメラのレンズの向こう、相変わらずナナコーーもとい、磯貝 奈々子はやかましく動き回っている。
なにがやかましいって、全部だ。
声も、顔も、動きも、まるでギャグ漫画のキャラクターのようにキレッキレに動き続けている。
「私のことを見て“可愛いJKキタコレマジヤバイ”!と思った初見の視聴者さん、今すぐチャンネル登録ボタンをポチるのです! ポチった? ポチったよね! よーっし、またこれでお小遣いアップぅ! ありがとう! これで明日のお昼ご飯に美味しいものを食べられまっす! 『研究会のドキドキランチタイム動画』はチャンネル登録者限定で不定期配信してるので、そっちも要チェックだゾー★」
自称する通り顔立ちは整ってるし、背が高いし、制服に包まれた体つきは非常に羨ましいし、動く度になびく長い黒髪は綺麗だし……なのにこのノリだ。
残念な美人とはこいつのことを指すのだろう。
正直、隣を歩くのも嫌になることは多い。
「ちょっとー! ミズキちゃーん、そんなしみったれた顔しないのよう!」
……うわ、こっちに振ってきた。
「いや、別に私は映らなくていいし。カメラマンだし」
「そんなこと言わないの! ミズキちゃんも研究会のサブリーダーなんだし!」
「ふたりしかいないのにサブリーダー呼ばわりされても不毛なんだけど」
「ミズキちゃんのファンだっているじゃない!」
「そうだね。チャンネル登録者23人の中のひとりだけね。しかもそれ妹だから」
「じゃああとは増やすだけじゃん! やったぜ、伸びしろの塊! じゃ、交代交代。次はミズキちゃんが映る番だから」
「あ! いや、私はいいって、カメラ返せーーああ、もう……ええと……」
くそう、カメラ取られた。奈々子は何が楽しいんだか、ニッコニッコと満面の笑顔でレンズを私に向けてくる。
「え、と……こ、こんにちはぁ……? ミズキでーす……」
辛うじて声を絞り出して、ぎこちなく表情を変形させて、指を二本立ててピースに……くそう……。
そのレンズに映ってる私、平城 水貴の姿は……こう……奈々子の後だと、余計惨めだった。
背丈は普通だし、体つきはフラットだし、顔つきは普通以下だと思うし……ああ、もう、下手に色気出して美容院なんか行くんじゃなかった! 前髪長いままにしておけばよかった! あの美容師、短めに切った上に茶色っぽく染めやがって! そりゃ『おまかせ』って言ったけど!
「し、仕方ないじゃん、美容院とか初めてだったし……」
「ミズキちゃーん、全部声出てる! 出てるよー! でもなんか可愛いから得点バク上がりよー! ぐへへへ役得」
「うるせー黙れ! はよカメラ切れよ、早く!」
「ぶー、可愛いのにー」
「頬を膨らませるな、子供か」
さっさとカメラを奪い返す。
私はカメラマン専業だ。そのはずだ。そもそもそのつもりでYoutuberなんて遊びに付き合ってやってんのに、奈々子はことある度に私を画面に出したがる。非常に迷惑だ。
いや、『うまくいけば就職せずに大金持ちになれる』『欲しい本をなんだって買える』ってワードに惹かれたのも否定できないけれども。
「画面にはナナコだけ映ってりゃいいの。はい進める」
「ういうーい。ってことで、可愛い可愛いミズキちゃんでした! ミズキちゃんをもっと見たーいって思ったあなた! チャンネル登録者限定動画の『今日のミズキちゃんシリーズ』を要チェックだ!」
「前から言ってるけどそれ盗撮だからね。なんで家で寝てる顔まで撮られてんの。出るとこ出たら勝てるからね。」
「さーてどうかしらーん? 妹さん全面協力だもの、仕方ないね、合法だね、うふふ」
「オッケー知ってるよ! 言ってみただけだよ! はよ進めろ!」
私の周囲には敵しかいない。私はひっそり目立たず生きられればそれでよかったのに。誘惑に負けた己が憎い。
「とまぁミズキちゃんが催促しまくってくるのでー、これから調査開始します! ほいタイトルどん! せーの!」
【怪奇現象研究会がついに真実を解明!? 魂食い道の真相! 大いなる影との激闘! その裏に潜む悲しき過去の悲劇とは!】
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