プロローグ

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プロローグ

何もくれなかった。 恋人と呼べる関係でもなかったあの人が今日も私の中に存在している。10年経ち顔だってろくに思い出せないのに、まだ好きなんだと自問自答して、似ている人を街中で探している。 似ている人なら愛せるんじゃないかと思っているけど、すれ違う人の香りでさえあの人と一緒じゃなきゃ許せない。 愛されたいなんて思ったことはなかったはずなのに。 今目の前に来たら、何て言おう、何て聞こうと繰返し繰返し考えているけど、10年経てば、すでに結婚しているかもしれない人に聞きたいことは妄想でしかない。 大切な言葉を1つも交わせてないはずなのに、彼女以外に私を理解する人はいないんだと言い切れるのは恋じゃなく、病気なんだろう。 どんな偶然があれば彼女と会えるのだろう。映画のように、たまたま立ち寄った本屋に彼女がいることはない。学生時代の友達に連絡し、彼女の現在の連絡先を聞き出せば良いだけなのに、それをしないのはきっと妄想で追い続ける彼女が好きなのだろう。生身の人間と恋愛をどうやってするのか、今だってわからないのだから。
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