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「ぼ、僕に何の用だ? お、おまえごとき、もうフィオには太刀打ちできやしないぞ。いい加減諦めてくれ」
ありったけの勇気を搔き集めて投げてみたが、相手は無反応であった。
例の、意味のわからぬ嫌味も言わない。
イアンは意味ありげに顔を横へ向けた。つられてベヒルは視線を辿り、あっと声を上げた。今まで子供が壁となっていて気づかなかったが、崩れた噴水の縁に人が腰かけていたのだ。
その玲瓏とした横顔を見て、ベヒルは眼が張り裂けそうになった。
死んだはずじゃなかったのか?
確かに、そう聞いている。だが、どこからどう見ても本人そのものである。これほどの美貌を持つ人間がそうそういるはずがない。
その証拠に、子供たちは魅入られたように口をぽかんと開けて傍から離れられずにいる。
しかし、とベヒルは首を捻った。
何だか変だ。印象が随分と違って見える。なんというか、匂いが立ち昇るというか、妙に艶めかしいのだ。
戸惑ってイアンの方へ眼を向けると、彼は片側の口の端だけを吊り上げてみせた。
「どこの誰かは俺もわからぬ。記憶が無いようだ。俺には本人そのものに見えるがな。それもごく普通の女に」
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