プロローグ 

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 カウンターのずっと後方、奥の壁側にある一角で一組の男女が食事をしている。  若者は顔を戻した。 「いいのかい?」    ほとんど唇を動かさずに呟く。 「ああ、俺の手に負える相手じゃねえようだ。…女の方がな。他も全滅だ」    若者は、カウンター周りにちらほらいる同業者たちの冴えない顔つきに、さっと視線を走らせた。 「そのようだ」  給仕が手元に置いた酒を飲もうと、グラスを口に運ぶ。  その腕を、いきなり袖ごと後ろから引っ張られた。中身が生き物のように飛び跳ねて、上着に大きな染みを作る。 「てめぇ――」 「フィ、フィオッ! フィオラン! き、きみ、また人を騙して……」  ぎょっと振り向いた若者は、袖を引っ張った相手の口を塞ぎ、なかば引き摺って外へと強引に連れ出した。  頭ひとつ分低い痩せた青年は口も鼻も塞がれ、瀕死の態でジタバタともがく。外の階段下まで引きずり下ろされ、やっと解放された。  青年はぜいぜいと肩で息を継いだ。 「ぼ、僕を殺す気かい?」 「生っちろいこと言いやがって。これくらいで死ぬかよ」 「わざと鼻まで塞いだだろう。本当にきみは酷い人間だ」 「あんな所でおまえが人聞きの悪いこと言うからだろうが」 フィオランと呼ばれた若者はうんざり気味に吐き捨てた。 (相変わらず、こいつは空気を読まねえ)
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