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「き、きみがそんなことを言うのかい?」
青年は、人の二倍はある大きな眼をさらに見開いて抗議を始めた。
「僕の名前を騙って罪を犯しておいて、この僕を批難するのかい?
ぼ、僕に謝罪のひと言もないなんて、後ろめたい顔ひとつ見せないなんて、あ、厚かましすぎるよ!」
「おい、大袈裟に騒ぎ立てるな。ちょっと名前を借りただけだろうが。
大体、俺が人殺しでもしたか? 強盗にでも入ったか? 罪を犯すっていうのはそういうことだろうが。小っせえことを十割増しにする癖、いい加減やめろ」
「僕の名前を使って人様から金品を巻き上げることは罪ではないのかっ」
青年は顔色の悪い顔をさらに青くして叫んだ。
大きな眼がぎょろりと最大に剥かれる。
長衣と呼ばれる筒型の白い僧服を着ているが、やせこけた彼には大きすぎて棒に引っかかった布きれのようにバタバタと風にはためいている。その様はまるで幽霊のよう。
「ぼ、僕が布教でこの街を留守にしている隙を狙ってやりたい放題…。
僕は旅先で『サジェットのベヒル』というチンピラの噂を散々聞かされたんだぞ」
「へえ、そりゃまたどこのベヒル様なんだろうな。遠方にまで広まるなんて大した奴じゃねえか」
フィオランは青年の抗議を気にも留めず、耳の穴を小指でほじりだした。
その態度を見て、青年は口をぱくぱくさせる。
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