プロローグ 

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 フィオランはしばし沈黙した後、口角を吊り上げて笑った。 「へえ、そうかい。よかったな。しかし、あの国はそろそろお山が火を噴くってもっぱらの噂だ。そんな時期に移動だなんて、この先苦労するだろうによ。ま、頑張れよ」  ぽんと肩を叩き、そのまま重い木扉を開けて酒場へと姿を消してしまった。  後に残されたベヒルは唇を噛み締めた。  こんな別れは望んでいなかった。 「意地っ張りめ……」  酒場内に再び踏み込んでから、フィオランはしばらく放心したように店内へ視線を彷徨わせていた。  端から見れば、薄暗い屋内にのんびりと目を慣らしているようにも見える。 (結局、また俺ひとりか)  腹の辺りにわだかまるものが首をもたげようとするのを無視して、頭を切り換えた。  途中、邪魔が入ったひと仕事に取り掛からなければならない。    先にカウンターへ寄って、飲み物をふたつ注文した。  錐で氷を砕き始めた給仕に、何気なさを装い話しかける。 「いつ来たんだ?」    勿論、彼のずっと後方にいる男女についてだ。 「今朝だよ。早々に三人撃沈だ。おまえさんでも難しいじゃないのかい?」  中年の給仕は唇をほとんど動かさずに囁いた。職業柄、身につけた技なのだろう。細かな氷がびっしりと詰まった容器を二つ、カウンターの上を滑らせる。それを受け止め、フィオランはにやりと笑った。
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