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翌日編
目を覚ますと、知らない場所に居た。
ガンガンと頭が痛い。
所謂二日酔いだということに気が付いて、そっと起き上がり、周りを見渡して、それから寝ていたベッドを確認してぎょっとする。
部屋自体は普通のものだった。
ただ、俺の部屋より少し広めだった。
同じ様な給料の筈なのに、おいてあるものは俺よりも、お高そうな気がする。
ベッドに寝ている安田を見ながら、よく男二人この狭いベッドに納まっていたなと思う。
このベッドは若干大きめな気がするが、そもそもシングルベッドというのは存外小さいということに気が付く。
ミミちゃんが襲われるんだけど、あまりにがっつかれてベッドから落ちるのも有りかと考える。
にしても、適当に床にでも転がしといてくれればいいものを、この男は酔っぱらってぐでんぐでんの俺をわざわざベッドに運んだということだろうか。
何となく、こいつの自宅に来たところまでは覚えている気がする。
よたよたとおぼつかない足どりだったけど、無茶苦茶楽しい気分だった。
そこまでは、朧げに覚えているのに、その先がすこーんと抜けている。
着た覚えの無い、Tシャツとハーフパンツは恐らく安田のものだろう。
適当に床にでも転がしといてくれれば十分なのに、男二人でくそ狭いベッドで寝ているというのがおかしかった。
それとも、吐き散らかしでもしたんだろうか。
ガンガンする頭ともたれまくった胃は昨日吐いたのかそうでないのか教えてはくれない。
嫌な酒では無かったので、多分吐いちゃあいないと思いたい。
背伸びをすると、横で馬鹿面さらして寝ているイケメンをゆすって起こす。
「おい、起きろよ。」
んー、という間抜けな声を出しながら安田が起きる。
ぼーっとした顔できょろきょろとして、それから俺を見つけてへにゃりと笑った。
「坂巻さん、おはよーございます。」
「ああ。」
なんか、いたたまれなくなって、視線を逸らした。
何故だか、昨日の運命だとかいう冗談を、唐突に思いだしてしまった。
酒の席の戯言を翌日に思い出しても意味が無い。
忘れよう。
うん、そうだ。それしかない。
安田が起き上がると、後頭部をがりがりとかいた。
「昨日の続きをしないといけないですね。」
俺の手を握りしめて安田はいった。
だけど、そもそも、俺は、昨日の、記憶がないんだよ。
何のことを言っているのか全く分からない。
ぽかんと成り行きを見守るけど、意味が分からない。
「あれ?もしかして昨日のこと覚えてませんか?」
「悪いが、ここへ来てからの記憶が全くないんだ。」
何かしでかしたのか、恐る恐る申告する。
「ああ、やっぱり。相当酔ってましたからね坂巻さん。」
「俺、吐いたりとか……。」
「してませんよ。服は畳んで、ほら。」
目線で示された先に昨日着ていた服が置いてあった。
「じゃあ、昨日のっていうのは?」
「だから――。」
安田の声が、少し低く、そして甘くなった気がした。
先程握られた手を、そのまま安田は自分の口元へ持って行って、そっと唇を落とした。
現実味のないその行動に一瞬行動が遅れる。
「お、おまっ、まだ酔ってるのかっ!?」
しどろもどろになりながら言った。
「やだなあ、坂巻さん。昨日言ったこと忘れたんですか?
今日になってもう一度言ったら、聞いてくれるっていったじゃないですか?」
俺の指先、爪の周りをさするように安田が撫でた。
ゾワリとした。
「好きです。好きなんです。俺と付き合ってくれませんか?」
確かに、昨日強か酔って、聞いてやらんこともないみたいなことは言った。
だけど、これは、完全に!!完全に、想定外だ。
パクパクと池の鯉みたいに口を動かすが声は出ない。
そもそも、なんて答えればいいんだよ。
馬鹿か?こいつ馬鹿なのか?
「そもそも、俺とお前が付き合ってお互いに利点は皆無だろうが。」
漸く出たのは断りの言葉ではなく、意味不明な言葉だった。
そもそも、恋愛ごとに利点は関係ないだろう。
恋愛、碌にしたこと無いのでわからないけど……。
「利点ですか?そうですね……。」
失礼なことを言ったにもかかわらず、安田は少し考え込むとすぐに話し始めた。
「まず、坂巻さんの趣味に理解がありますよ。原稿中は邪魔しませんし、俺料理得意なんで作りに行きますよ。イベントだって売り子もしますし。
それに、同じ会社なので色々楽ですよ。
坂巻さん、待ち合わせしたりとか苦手でしょう?
俺とだったらそういう面倒なことないですよ。」
正直引くわ。食い気味に言われて、うわぁと思う。
それに、いろんなことを見透かされているようで、恥ずかしい。
「きっと、こんなに坂巻さんのこと好きなの俺だけですよ。
俺が世界一坂巻さんのこと愛してあげますから。」
上から目線なのが若干むかつくが、そもそもまともに告白された経験の無い俺はただただ、酷い動悸とそれから妙に熱くなる自分の体を持て余すことしかできなかった。
これから、俺と安田の関係は少しずつ変化するのだけれど。
そんなことは、絶対に知りたくもなかった。
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