宅飲み編その2

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宅飲み編その2

俺の部屋に来て、一人暮らし用の小さなちゃぶ台?というかこたつにもなる小さなテーブルに買ってきたものを並べる。 「後で飲む分、冷蔵庫にしまっておきますね。」 安田が冷蔵庫の扉を開ける。 一人暮らし専用に違いない2ドア式の冷蔵庫だ。 「あの、なんか野菜色々入ってますけど。」 こちらを振り返って安田が言う。 先週か先々週かよく日付は思い出せないが、実家から野菜が送られてきた。 とりあえず母親に電話をして、冷蔵庫にしまって、そのまま今日になってしまった。 残念ながら、きっと野菜はしなびていることだろう。 「これ、使ってなんか作りますか?」 チラリとキッチンを確認してから安田が言う。 「は?うち肉とか無いぞ。」 調味料は塩とか醤油とか多分一揃いあると思う。 バターとかカップ麺に入れると割と美味い。コンビニ飯は飽きるので、味を変えるために調味料だけはあるのだ。 「別に肉なくたってつまみ位作れますよ。」 安田が呆れたように言う。 なんていい返したらいいか分からなくて、少し黙ってから答えた。 「じゃあ、なんか作って。」 自分で言ってから、背中がもぞもぞとした。 なんだこれ、なんだこれ!?まるで恋人に彼氏がねだってるみたいじゃないか。 案の定ニヤリと気持ち悪く口角を上げて安田は「分かりました。」と答えた。心なしかその声が弾んでる気がしたのは多分気の所為に違いない。 ぼんやりと座って安田の後ろ姿を眺める。 リズムよく野菜を切る音を聞いて、ああこいつは料理を普段からするのかと思った。 先に、勝手に缶ビールを開けさせてもらう。 プルタブを上げてそのまま口をつける。 ぼーっと眺める安田の姿勢は美しく後ろから見ても一般的な男性とは違うんじゃないだろうか。 そんなことを考えながらビールを流し込む。 喉が少し暖かくなって、ふわふわとする。 ほどなくして、安田が皿に盛り付けられた炒めものと、なんか茹でたところにタレっぽいのもをかけたやつを持ってきた。 「簡単ですけど。」 そう言って置いたが、匂いからしておいしそうだった。 テーブルに置いたビールを一本安田に渡す。 ビールの缶は室温でしずくが付いてしまったがまあいいだろう。 それよりもこのいい匂いのする食べ物を早く食べたかった。 「美味いなこれ。」 「本当ですか。お口にあった様で良かったです。」 安田もビールを飲みながら皿に乗った料理とそれからコンビニで買ってきたつまみを食べる。 「DVDでもかけるか?」 二次元好きという以外特に共通点が無い上に特に会話が得意でもないので、そう声をかけた。 「あー、何がありますか?」 少し言葉を濁した後安田にたずねられる。 「えっと、ミミちゃんシリーズは全部あるし、ああ、そうだ、前にはまってた夢見る魔法のDVDもあるんだけど。」 ここ数年はミミちゃん一筋だが、その前にはまっていたジャンルのDVDがある。 限定版でオーディオコメンタリーも入っているし、兎に角作り込みがすごい。 だけど、今は買えないんだよな。ホント素晴らしい作品だから是非Blu-rayでも出して欲しい。 「夢見る魔法、いいですよね。俺も好きでした。」 「だろ!?良かったよな!」 でも、ならかけてもしょうがないのか。 「知ってるなら、違う方がいいか……。」 他に何あったっけ?と考える。 「夢見る魔法見ましょうよ。俺、この作品で坂巻さんの薄い本買いだしたんですよ。」 持っていた缶ビールを滑り落としそうになる。 え、マジか。これ結構、いやかなり恥ずかしいな。 「そ、そうなんだ。」 声が上ずりながらもそれだけ言う。気の利いた返しなんか全くできなかった。 DVDを棚から取り出してデッキにセットする。 音量はやや小さめの方がいいだろう。 好きだって安田も言ってたからどうせ内容は全部覚えているだろう。 アニメを横目に酒を飲む。 こんな幸せって他にないだろう。 「そういえば、このころ、坂巻さん突発本かなり出してますよね。」 丁度、何回目かのエンディングで安田が言う。 「ああ、かなり仕事忙しかった時期でオフ本入稿できなかったりしたから。」 だから、コピー本やオンデマンド頼みになったことが多かった気がする。 「イベント売りだけだったので、何冊か持ってないんですよね。」 欲しいとか俺のために刷りなおして欲しいとかそんなニュアンスでは無かった。 イベントに行ったり、ネットでの付き合いだったり、浅い付き合いしかしてこなかったが、欲しいもののために寄ってくる人間は少なからずいた。 だけど、それとは少し感じが違った。 ただ、淡々と事実を言っている様な言い方だった。 事実、チラリと安田を見ると視線はもうテレビにいっている。 「通販なかったってことは、睡眠姦あたりのやつか?」 「多分そうです。」 「ふーん。ちょっと待ってな。」 リビングスペースの横にあるクローゼットの扉を開ける。 仕事に行くか、近所のコンビニか、それか時々のイベント、それ以外あまり出歩くことの無い俺のクローゼットにはほとんど洋服はない。 その代わり、床に面した部分のケースにはイベント用のラックとか、残部とか、それから昔書いた同人誌の自分用のものとかが入っていた。 クローゼットといっても、俺の部屋は昔和室だったのをリフォームしたようで奥行がある。だから、四つん這いになってごそごそとやっていると、尻を掴まれた。 「ひゃっ……!?」 思わず変な声が出る。 「何やってるんだよ。」 「いや、良い尻だなと思って。」 顔だけ振り返って睨みつけると安田が軽い口調で笑う。 「いや、尻なんぞ普通揉まないだろ?」 「好きな人と部屋に二人っきりで目の前にあれば揉むでしょ普通。」 ああ、そうだった。ここのところ落ち着いたと思っていたがこいつ俺のこと好きとかとち狂ったこと抜かしていたんだった。 思い出すと急に危機感をおぼえて、そっと離れる。 「いや、別に取って食ったりしませんよ。」 困ったように安田は笑う。 「本当か?」 「まあ、本気で嫌がることするのは本意じゃないんで。」 「そうか。」 こいつがそういうならそうなんだろう。 「もう触るなよ。」 「それより、尻柔らかいのは嬉しいですが、これ太ももとかもふにゃふにゃじゃないですか?少し鍛えたほうが……。」 「うるさい!!」 男として恥ずかしいとか、そういんじゃない。でも兎に角恥ずかしかった。 鍛えようかなと思いつつも再びクローゼットを漁る。 直ぐに目当ての本は見つかった。 「ほら。」 安田に差し出したのは、多分安田が持っていないといっていた本。 安田は珍しく、視線を俺の顔と本との間をうろうろと彷徨わせた。 「読んでもいいんですか?」 「いいっていうか、それ、いるならあげるけど。」 実際何かあったとき用だったり残部が中途半端だったりして手元には複数冊残っていた。 だから、別に安田に渡しても構わない。 安田は自分の脇腹のあたりの服で手を拭いた後、本を受け取った。 普段は酒を飲んでも変わらない顔色は、ややピンク色に染まっていた。 「今、読んでもいいですか?」 そう言われ、こちらまで気恥しさで頬を染めてしまっただけで、別に安田が喜んでいた表情が嬉しかった訳では無い。 そんな気持ちを知りたくはなかった、多分。
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