プロローグ

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プロローグ

辰巳輝(たつみ あきら)が倉橋翔(くらはし しょう)の部屋のドアを開けて開口一番に発した言葉は 「なんだこりゃ」 だった。 何の事だか分からずに翔は首をこてん、と傾ける。 「‘なんだ’って、なんの事ですか?」 「おい、お前こんな所で本当に生活してんのか」 「え?はい、そうですけど……?」 翔は自分の部屋を見渡してみる。 過保護な両親が用意してくれた一人暮らし用の部屋はJR桜木町駅から徒歩5分、タワーマンションの三階だ。 もっと簡素なワンルームで十分だったのに、セキュリティを心配した両親は頑としてオートロックとコンシェルジュ付きの物件を譲らなかった。 僕、お巡りさんなんだけどなぁと苦笑したものの、十代の頃に患った大病のせいで随分と心配をかけてしまった結果の過保護ぶりなのは分かっていたから、仕方なく両親の意見を尊重する事にした。 せっかくの高層マンションだし、どうせなら夜景の見渡せる十五階くらいが良かったのだけど 『もしも停電が起きてエレベーターが壊れちゃったら翔ちゃん歩いて部屋まで帰れるか心配じゃないの!』 『もし災害でもあったら上の階だと避難に時間がかかるじゃないか!』 などと両親に泣きつかれ、結局マンションの一番下の階である三階に落ち着いたのだ。 ひょっとして辰巳先輩はもっと景色が見える部屋を想像していたのだろうか。だとしたら、期待を裏切ってしまって申し訳ないな。などと思っていたが、どうやらそうではない事は次の言葉ではっきりした。 「汚ねえっ!!」 一体どうして辰巳が翔の部屋で叫び声をあげているのか。話は三日前に遡る。
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