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神奈川県警横浜みなとみらい署の捜査一課一係に所属する二人が正式にバディを組んだのは今から一ヶ月ほど前の四月二十日のことだ。 それは一係に配属されて約一年、ことごとく自分に冷たく当たる辰巳に必死で食らいついた結果、翔がやっと手に入れた居場所だ。 本人には恥ずかしくて伝えていないが、実は翔にとって辰巳輝は十五歳の頃から憧れの存在だった。 幼馴染で同僚だった塚田優一の見舞いに訪れていた辰巳を、病院の部屋の陰からそっと覗きながら、同じ病棟のよしみで塚田と親しくなった翔は辰巳の話を沢山教えてと毎日せがんだものだ。 二人でバディを組んで解決した事件の話だけではなく、学生時代の話も塚田は語ってくれた。 小学校の頃から運動が得意で、運動会ではいつもリレー選抜だった事。 中学、高校、大学と剣道で全国大会に出場していた事。 成績は常に上位だった事。 昔からモテモテで毎年バレンタインには紙袋いっぱいのチョコレートを貰っていた事。 塚田と二人でやんちゃばかりしていた事。 初めて出来た彼女は中学二年の時で(おっとこれ以上は翔には刺激が強すぎるな)と塚田にはぐらかされてしまったけれど、十歳の頃から闘病していた翔には辰巳の全てが眩しくて、病室を後にする彼の大きな背中は夏の日差しの様に煌いて見えた。
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