4.4

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水野はカウンターに背を向けて黙々と野菜を切り始めた。横の辰巳は何を言うわけでもなく気怠げに煙草を口に咥えている。 しん、とした空気のなかでさっきはあんなに耳に心地よかったジャズの曲が妙に居心地悪く思えて、翔は沈黙に耐えられずに口を開いた。 「えーと、あの、辰巳さんと水野さんは高校の先輩と後輩のご関係なんですよね?…部活が一緒だったとか、ですか?」 「俺が3年で輝が1年だな」 辰巳は36歳だから、水野は38歳という事になるが水野の外見からはいまいち歳が読み取れない。 もっと歳上の男が持つ様な不思議な貫禄と余裕を、翔は会ったばかりのこの男から感じていた。 手早く切った野菜をフライパンで炒めながら水野は話を続ける。 「まーあ、生意気な野郎でな。入学早々優一と一緒に喧嘩吹っかけてきやがってさ。それが最初だな」 「け、喧嘩…ですか⁈」 「そうよ。ま、ボコボコにしてやったけど」 「ボコボコにはされてねぇ、話盛んなよ」 ふぅ、と煙を吐きながら辰巳が反論してきた。 「はぁ?2人仲良く病院送りにしてやったじゃねえか」 「ふざけんな、ちょっと流血して縫っただけだ」 「それをボコボコっつうんだよ」 どうやらとんでもなく物騒な出会いだったようだ。 友達との喧嘩、ましてや取っ組み合いで流血など、翔はした事はもちろん見たこともない。 「それなのにこんなに仲良しなんですね…不思議」 「「仲良しじゃねえ!」」 2人揃って翔に反論するあたりも息がぴったりだ。 翔はおかしくなって、すみません、とクスクス笑いながら一応謝った。 「まあ、そんなバカな事する奴なんてなかなかいねえからなぁ。そっからはツルんで可愛がってやったんだよ。…ほら、食いな」 話しながら手早く作られたナポリタンはツヤツヤとソースが絡まって見るからに美味しそうだ。 「わぁ、いただきます!…んっ、おいしいっ」 見た目はケチャップなのに口の中で複雑に絡み合うソースの味に翔は夢中で食べた。隣で辰巳も黙々とパスタを口に運んでいく。 「いっぱい食えよ」 水野は煙草を咥えながら翔の食べっぷりに微笑えむ。2人はあっという間に綺麗に完食した。 「さて、と」 皿を片付けた水野はカウンターから出て来ると近くのテーブルにもたれかかった。 「お前が翔を連れて来たって事は、そういう事だよな?」 「ああ」 先程までの和やかな雰囲気は途端に緊張に包まれていった。
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