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6.2
「え、ほれ、えっ…」
”惚れている”の意味が咄嗟に分からず、ぽかんと間抜けな顔を晒してしまった。”惚れている”っていうのはつまり、”好き”と言う意味だ。顔がかあっと火照っていくのが分かる。と言うことは、
(辰巳さんが、僕を好きだってこと…?)
本当に期待していいだろうか。辰巳が自分と同じ気持ちかもしれないという事を。翔は確かめずにはいられなかった。
「辰巳さん、それって…その、僕の事が好きって事ですか」
「そうだ」
「単なるバディとしてとかじゃなく…?」
「違う。恋愛の対象としてだ」
辰巳の眉が少し下がる。
「気持ち悪いか?」
こんな人でも不安になることがあるんだな、と翔は不思議な気持ちになった。だって自分の知っている辰巳は見た目の格好良さに加えて、頼り甲斐があって、包み込むような優しさがあって、一緒にいるといつも楽しい。そんな人に惚れていると言われて気持ち悪いはずがない。翔も同じ気持ちなのだから。
そこで、ようやく気づいた。そう言えば、辰巳は知らないのだった。翔も同じ気持ちだと言うことを。言わなくてはいけない、自分も辰巳を好きだと。何とかそれを伝えたかったが、驚きで口から言葉が出てこない。代わりに勢いよく首を横に振った。
「そうか、気持ち悪くないなら良かった。まぁ、第一段階はクリアだな」
辰巳の右手が伸びてきて、翔のふわふわの髪をくしゃりと撫でた。
「こういうのは、大丈夫か?」
「は、はい…」
「じゃあ、これは」
頬を両手で包まれる。暖かい辰巳の手。
「大丈夫、です」
本当は大丈夫なんかじゃない。自分の心臓が、物凄い勢いで脈打っているのが分かる。このままだと、死んじゃうかもしれない。
「俺は、お前を自分のものにしたい。他の奴に触らせたくないし、お前の事を可愛いって言ってる奴がいるとぶん殴りたくなる」
そう語る辰巳の瞳の奥に確かな欲望を感じとって、翔は全身の血が沸き立つのを感じた。
「少しずつでいいから俺のものになってくれるか、翔」
顔が近い。その瞳で覗き込まれたら、もう何も考えられなくなった。小さく頷いて自然と目を閉じると、柔らかなものが自分の唇に当たる。柔らかくて、湿っていて、少しだけひんやりとしていて、気持ちがいい。それが辰巳の唇だと気づいた時には、翔はソファに押し倒されていた。
翔の上に覆いかぶさった辰巳は、ちゅ、ちゅ、と優しい口づけを今度は翔の額に、鼻に、頬に落としていく。そのあとで再び唇にされたキスは、さっきと様子が違っていた。触れるだけだった唇はさらに深く結びついて、翔の小さな口は隙間なく塞がれてしまった。
「ふ、ん…んっ」
気持ちが良くて、変な声が出てしまう。息がうまくできなくて苦しいのに、それでもやめて欲しくはなかった。辰巳は幾度も翔の唇を吸い、そして優しく食んだ。
「翔、口開けろ」
強く重ねた唇を少しだけ離されて、辰巳にそう言われた。吐息がかかるほど近くにいるのに、離された唇が恋しい。言われた通りに、少しだけ口を開けた。
ぬるりと入ってきたのは、分厚く濡れた辰巳の舌。それは翔の歯列を丁寧になぞりながら奥へと侵入してくる。
(あぁ、辰巳さんの舌で早く僕の口の中をめちゃくちゃにしてほしい)
今までキスの経験すらない翔だったが、辰巳の優しい舌遣いにすっかり溺れていた。こんないやらしいことを考えるなんてと頭の隅で思っても、身体も脳もすでにとろとろに溶けきってしまって、羞恥心などどこかに吹き飛んでいる。
辰巳の舌が、翔のそれを絡めとっていく。じゅくじゅくと唾液が交わる音が頭に響いて、興奮する。もっとしてほしい。もっと、もっと、もっと。
その時、辰巳と翔のスマホが同時にけたたましく鳴り響いた。

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