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1.3
「おはようございます!」
「おっ今日もニコニコだなぁ、ショウちゃんよぉ」
元気よく一係のみんなに挨拶した翔に先輩警部の徳永が声をかける。えへへ、と笑いかけると徳永は眼をしばしばさせて半泣きになった。
「眩しいっ!徹夜明けのおじさんにはショウちゃんの存在が眩しいっ!」
「えっ!徹夜なんですか?あれ、でも緊急の事件が入ったって聞いてないけど……」
徳永の横からバディを組む香坂が顔を覗かせる。
「翔〜、助けてくれぇ〜死んじまう〜」
「ど、どうしたんですかお二人共⁈」
慌てて二人のデスクに駆け寄った翔が見たのは散乱した書類の山だった。
「あ、これ先月の事件の報告書じゃないですか!こっちは始末書?」
「総務とシバさんにせっつかれて昨日から仕方なくやってんだが全然終わんねぇのよ」
「翔〜、後生だから手伝ってくれ〜」
二人はどうやら提出すべき書類たちを放ったらかしにしていたらしい。
ゾンビの様に翔に絡みつく先輩二人に苦笑しながら、ちょっとだけならと書類に手を伸ばしたところで、後ろからがばりと身体を引き寄せられた。
「勝手に人のバディを使わないで下さい」
ぴしゃりと言い放った低い声が翔の頭上から落ちてくる。
「なんだよタツ!お前だけのショウちゃんじゃねえんだぞ」
「十年前は輝も可愛かったのによぉ〜」
先輩達の恨み言に辰巳の眉間の皺が深くなる。
「先月も手伝ってあげたじゃないですか。いい加減自分達でやって下さい」
辰巳はそう言うと翔の方に顔を向けた。
「いいか、このおじさん達は三十年間こうやって書類を放ってるんだ。本人達の為にならないから絶対手伝うな」
いいな、と言われて翔は、はいと元気に返事をする。
よし、と辰巳は微笑んで翔の身体を掴んでいた右手を離すと頭をぽん、と撫でてくれた。
翔の鳩尾あたりに辰巳の腕の感覚が残っていて温かい。
きっとそれは憧れの先輩に触れられたせい。
自分をバディと言ってくれて嬉しかったせい。
今日も自分に向けられた辰巳の微笑みが優しかったせい。
翔は辰巳に触れられた頭を自分の右手でそっと撫でた。
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