勉強会

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 和とおれとの顔が同時に、声の方へと動いた。 「やたらデカいのがいると思ったら、やっぱ、ナギだ。何?例の補習の帰り?」  声の主は、和と同じくらいの年齢の――少年だった。 和はブレザータイプの制服姿だったが、彼は私服だった。  右手にマグカップを持っているので、ドリンクバーのついでに立ち寄ったらしい。 「そう。――須藤って地元だっけ?」  和がくだけた口調でごく自然に、そう応じるところを見ると、クラスメイトか部活動の仲間のようだった。 「高校、近いだけで選んだみたいなもんだから」  和に須藤と呼ばれた少年は、ニキビ跡だらけの顔に浮かべた笑いを引っ込めて、おれへと視線を移して続けた。 興味津しんといった感じで、その丸っこい目が光っている。 「――誰?弟?」 「!?」  おれはもちろんのこと、和もとっさに応えられなかった。 「お、おとうと・・・」 呆然とようやくそれだけをつぶやくおれを、和は横目でチラッと見た。  絶対に、大笑いをされる!と身構えていると、意外にも、和はそのままの表情と口調とで続けた。 「違うよ。センセイ」 「え?家庭教師とか?」  ――そう来たか。とおれは思った。 しかし、和はその言葉にも大笑いをしなかった。 「リハビリのセンセイ。時どき、相談に乗ってもらってる」 「あぁ、足首の。・・・もう平気なの?」  須藤少年の濃い眉がひそめられた。 和のことを本気で心配しているようだった。 「走らなければ。――でも、また走りたいから」  和の説明に、須藤少年は納得したようだった。 和からおれへと再び視線を移して、ペコッと頭を下げた。 「おれ、須藤です。ナギのクラスメイトでした。ナギのこと、よろしくお願いしますっ!」 「氷見(ひみ)です。こちらこそ、よろしく・・・」  自分で言いながらも、こちらこそって一体、何がだよ?と思ったのだが、あの時はそれしか思い付かなかった。  須藤少年は頭を上げ、おれの顔をジロジロと見つめて――、 「ヒミっていうより・・・ヒメって感じっすね!」 とあっけらかんと言い放った。
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