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手首を撫で擦るおれを、じいっと見ていた和はしばらくして、
「あ、そうだ」
と突然、声を上げた。
そして、背負っていたリュックサックを下ろし、中身を探る。
和は取り出した紙包みを、おれへと差し出した。
「これ。さっき須藤たちが居たから、渡せなかった」
「え?おれに?」
うなずく和の視線に促されて、おれは紙包みを開いた。
チューブ入りのハンドクリームだった。
顔を上げたおれの目と、和のとが合う。
つい今さっきまで、おれの手首を力の限り握りしめ、けして放さなかった時のとは、色も光もまるで違っていた。
優しく温かな、瞳だった――。
「センセイ、手ガサガサだから。陸上部のマネージャーだった、クラスの女子にオススメ聞いた。匂いもないし、ベタベタしないから、仕事中も使えると思う。夜塗って、そのまま寝てもいいんだって」
「和・・・」
「おれも同じの使ってる。――おそろい」
紺色のダッフルコートのポケットから、同じのを取り出し、和はヘヘッと笑った。
年相応の、いや、それ以下の、まるっきり子供みたいな笑い顔だった。
本当に子供の頃も、和はこんな顔で笑っていたのかも知れない――。
おれはそう、想像した。
「・・・ありがとう」
おれはハンドクリームのことも含めて、おれを心配してくれた和に思いを込めて、礼を言った。
「いいよ。別に」
途端に和は笑いを引っ込めて、素っ気なく言った。
――照れているのだと思った。
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