ハンドクリーム

10/11
73人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
 手首を撫で擦るおれを、じいっと見ていた和はしばらくして、 「あ、そうだ」  と突然、声を上げた。  そして、背負っていたリュックサックを下ろし、中身を探る。 和は取り出した紙包みを、おれへと差し出した。 「これ。さっき須藤たちが居たから、渡せなかった」 「え?おれに?」  うなずく和の視線に促されて、おれは紙包みを開いた。 チューブ入りのハンドクリームだった。  顔を上げたおれの目と、和のとが合う。 つい今さっきまで、おれの手首を力の限り握りしめ、けして放さなかった時のとは、色も光もまるで違っていた。  優しく温かな、瞳だった――。 「センセイ、手ガサガサだから。陸上部のマネージャーだった、クラスの女子にオススメ聞いた。匂いもないし、ベタベタしないから、仕事中も使えると思う。夜塗って、そのまま寝てもいいんだって」 「(なぎ)・・・」 「おれも同じの使ってる。――おそろい」  紺色のダッフルコートのポケットから、同じのを取り出し、和はヘヘッと笑った。  年相応の、いや、それ以下の、まるっきり子供みたいな(わら)い顔だった。  本当に子供の頃も、和はこんな顔で笑っていたのかも知れない――。 おれはそう、想像した。 「・・・ありがとう」  おれはハンドクリームのことも含めて、おれを心配してくれた和に思いを込めて、礼を言った。 「いいよ。別に」  途端に和は笑いを引っ込めて、素っ気なく言った。 ――照れているのだと思った。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!