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そう言い捨てるなり、おれは和の言葉を待たないで、背中を向けた。
そしてそのまま、地下鉄の改札口へと向かって歩き始めた。
座席の横、地下鉄のドアに映る自分の顔を、おれは見つめる。
車内の座席は、ぽつぽつ空いていたのだが、十分も乗らないので、立ったままでいた。
座ったら最後、力が抜けてしまいそうだった。
そのまま、硬いクッションの中にズブズブと、体が沈み込んでいってしまいそうだった。
流れていく窓の外の暗さは、黒さは、和の瞳そのもののように思えた。
自分では見たくはない姿を、まざまざと映し出す。
おれはよく、童顔だと言われる。
二十三になった最近ではさすがにないが、二十歳を過ぎてしばらくしても、高校生に間違えられていた。
――須藤少年の件は、かなりのレアケースだったが。
窓に映ったそんなおれの童顔が、おれを責めるように睨み付けてきた。
さっき和は、きっと傷付いたと思う。
何を言われたのか、全く分からなかったともしても、確かに、傷付いたと思う。
――そうなるような言い方を、おれはした。
わざと言葉を区切って、ハッキリと言った。
けして、和のためなどではなかった。
ただただ、自分のためにだけだった。
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