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午後十二時の王子様
その日、三月三十一日は、和の補修の最後の日だった。
正しくは、最後の課題の提出日だった。
これで和は晴れて、名実ともに高校を卒業したことになった。
おれは、その日は仕事があった。
しかし、どうしても直接、和に会いたくて、いつものファミレスで待っていてもらった。
先に食事をしていてもいいと言っていたのに、夕食時の美味しそうな匂いに満ちみちた店内で、和はドリンクバーのコーラだけを飲んでいた。
「だって、センセイと一緒に食べたいじゃん」
十九時過ぎになってやっと姿を現したおれへと、和はそう言い放った。
氷が溶けて、すっかり薄くなったコーラに一息でとどめを刺して、和は、
「センセイ、何食べる?おれ、今日はカレー」
とおれにメニューを差し出してきた。
それを受け取り、中身を眺めるだけながめてはみたが、おれはまるで食欲はなかった。
ドリンクバーと、目に付いたミートドリアとを適当に選ぶ。
すると和は何故か、急に弾けたように笑い出した。
「センセイ、この前もソレ頼んだよね?――好きなの?」
「え?まぁ・・・そう、だな」
これもまた、おれは適当に答えた。
和が、おれが頼んだメニューまでをも憶えていることに正直、驚いた。
戸惑っているおれの気持ちなど知りもしない和は、手元のメニューを覗き込んできて、
「ふーん、チーズいっぱい乗ってて旨そう。少しちょうだい。おれのカレーも食べていいから」
と、メニューからおれの目へと視線を移して、言ってきた。
「あ、あぁ」
近い和の顔から逃れるようにおれは横を向き、店員を呼ぶためのボタンを押した――。
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