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食事を終えてファミレスを出たのは、いつもよりも一時間以上、遅い時刻だった。
帰宅が遅くなることを心配するおれを、和は全く取り合わなかった。
「今日は、少し遅くなるって連絡してあるから大丈夫だよ。――別に、外泊するわけじゃないんだし」
「和・・・」
言ってすぐに、和はしまったというように苦笑した。
「噓だよ。ウソ。今のは冗談」
そして、その笑いもすぐに消して、真顔で、
「ねぇ、センセイ――」
おれへと呼び掛けてきた。
視線だけで応えたおれへと、和は続けた。
「おれ、四月一日まで待つって言ったけど、無理しなくていいから」
「え・・・?」
「センセイも色いろとあると思うし。付き合ってるとかいないとかそんなこと、ホントどうでもいいよ。・・・こうやって会えるだけで」
「⁉」
おれは、激しい既視感に襲われた。
――同じようなことを宗司郎さんに言ったことがあるのを、おれは一瞬で思い出した。
さっき和は、おれが食べていたミートドリアを食べるのに、自分が十二種類の野菜カレーを食べたスプーンを使ってもいいか?とたずねてきた。
意外と、細かいことを気にするんだな。とか、鍋物とかもんじゃとか食べられるのか?とか、半ば意外に半ば心配に思った。
しかしおれは、それは顔には出さないようにして、いいよ。とだけ答えた。
その時の和の顔は、何故だか残念そうだった。
つまらなそうに、ミートドリアにスプーンを差し入れて、すくい取っていた。
おれが、もっといっぱい食べていいぞ?と水を向けると、一口だけでいいよ。と和はポツリと言った。
思えば、あれは――おれに、食べさせてもらいたかったんだと、今更ながらに気が付く。
おれは、そんな和が愛おしくていとおしくて、堪らなくなった。
「和・・・‼」
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