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おれは反射的に、和に抱きついていた。
本当は――、本当は抱きしめたかった。
しかし、和との身長差と体格差とを考えると、自分でもそうとしか思えなかった。
周りにも、そうとしか見えなかっただろう。
ちなみにここは、ファミレスに面している幹線道路の歩道だった。
人通りはそれほどでもないが、車の交通量はそれなりにある。
でも今は、そんなことはどうでもよかった。
――どうでもいいと、思えた。
「・・・センセイ?」
「もう、いい!もういいんだ‼」
叫ぶおれの両肩を和は掴み、しがみつくおれの体を一瞬で引き剝がした。
「な・・・っ、何がいいんだよ!ダメだろっっ!センセイ、犯罪者になるんだろ⁉」
「ならない!ならないよ、和!だからもう、いいんだ!」
和の腕へと取り縋るおれが必死なら、和も又そうだった。
おれの肩を掴む力はそのままに、揺さぶり出した。
「何言ってんだよ⁉よくないよ‼何でおれが待ったと思ってんだよ!全部、センセイのためだろ⁉」
「だから、もう・・・!」
そこでおれは、やっと気が付いた。
本当に、何を言ってやっているのだと呆れる。
おれは和に、何故、もういいのかを全然説明していなかった――。
思わず衝動だけで行動してしまった自分に、自分でも驚いた。そして、改めて思う。
――ここは、公道だった。
夜という時間帯もあり、体格がいい和が犯罪者などと大声で口走っていては、警察に通報されても文句は言えないだろう。
濡れ衣もいいところだが、あえて着させるわけにもいかない。
おれの方から、手を離した。
「違うんだ、和。ごめん。ちゃんと話すから」
「・・・うん」
おれがゆっくりと区切って言うと、和は素直に、おれに両肩から手を退かした。
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