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和は落ち着いたのを通り越して、押し殺した低い声でさらに言い募る。
「――おれが、どんな気持ちで四月一日になるの待ってたのか、センセイ、知らなかった?」
いや、けして知らなかったとは言わせないと、その、低いひくい声は物語っていた。
和に応えるおれも又、腹の底から声を出すつもりで、しっかりとハッキリと言った。
「知っていたよ。――他の誰でもない、このおれが和に頼んだんだから」
誕生日についての、しどろもどろの説明だけではない。
おれは和に、出来ない我慢を色いろとさせ続けていた。
それにもかかわらず、和は待っていてくれた。
さっきは、さらに待つとまで言ってくれた。――おれのために。
でも、それはけして、本心からではなかったのだろう。
明日までだ!と思っていたのに、実は、今日の午後まででした~なんて言われたら・・・
怒り、悲しみ、そして苛立つのも、無理はない。
和はけして、物分かりがいいわけではなかった。
今、和の心の中では、様ざまな感情が吹き荒れ、渦巻いているはずだった。
文字通り、嵐のように――。
「じゃあ、何でだよ⁉」
おれへと食って掛かるどころか、飛び掛かる勢いの和に、おれは言い返した。
自然に大声になっていた。
「伝えたかったから!」
「何を!?」
間髪入れず返してくる和に、おれも又、すかさず言う。
「宗司郎さん、――白河医師とは別れた!」
「え?」
「だから和、おれと付き合ってほしい」
「え・・・?」
和の顔から色いろな感情が抜け落ちていき、最後には全くの無表情、平らかになった。
吹き荒れていた風が止み、波が収まった、――まさに凪の様だと思った。
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