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その、静まり返った和へと、おれは語り続ける。
「待たせて、ごめんな。――いや、今まで、待っていてくれてありがとう」
和がやっと、口を開いた。
窺うようにおずおずと、小さな声でたずねてくる。
「本当に、いいの?白河医師のこと、不倫だって分かってても――、好き、だったんだよね?」
和はそこで、声を言葉を詰まらせた。
息を吞む微かな音を、おれは確かに聞いた。
「そんなに簡単に、あきらめ切れるの?」
和が真っ先に、宗司郎さんのことを言ってくるのは意外だった。
しかし、おれのことを思い遣ってくれているのだと思うと、口の端が笑みで持ち上がるのが自分でも分かった。
「好きだよ。今でも」
「・・・・・・」
瞬間、おれから目を逸らし、和は口元をキュッと引き結ぶ。
こんなにも簡単に、おれの言葉一つで顔色を変える和が、改めて愛おしいと思った。
「結局、最後のさいごまで、嫌いにはなれなかった」
なれたら、ラクだったんだけれども。と心の中で付け足すおれに、和は叫ぶ。
「じゃあ――っ‼」
「でも、そんな白河医師よりも、和のことの方がもっともっと、好きになりたいと思ったんだ」
これが、おれが見付け出した、おれの本当の気持ち――、答えだった。
「センセイ・・・」
再びおれを見た和の目とおれのとが、真っすぐの視線で結ばれた。
「ダメ・・・かな?こんな理由じゃ」
けして、長い時間ではなかったと思う。
しかし、おれには和の沈黙が、永遠に続くように感じられた。
やがて、
「理由なんか、別にどうでもいいよ――」
と和がポツリと言った。
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